無罪か有罪か? 睡眠中に罪を犯す人々

睡眠の重要性はよく知られていますが、その睡眠が危険な結果をもたらすことがあります。

パラソムニア(睡眠時随伴症)と呼ばれる睡眠障害は、睡眠中に、突然歩いたり暴力的な行動にでてしまうことがあります。

このような行動に対して「睡眠中の犯罪は罪に問われるべきなのか」という議論が繰り広げられています。

事例:奇妙な行動

米団体「スリープ・フォレンジック・アソシエイツ」の創設者の一人であるミシェル・クラマー・ボルネマン博士によれば、「夢遊病がより複雑で暴力的になると、しばしば法医学的な分野にまで及ぶ」と言います。

「これは明らかに法律上非常に重要です。刑事告発には、説明が難しい非常に奇妙な人間の行動が含まれる可能性がある」と彼は示唆しました。

スリープ・フォレンジック・アソシエイツは、医師と睡眠科学者で構成される米国の組織で、法執行官や弁護士が刑事責任能力の問題に答える手助けをしています。この団体は、殺人行為を含む、睡眠中に行われた犯罪などを定期的に扱っています。

ボルネマン氏は、これまでに担当した最も奇妙なケースとして、西海岸でキャンプをしていたある人物の状況を説明してくれました。

この人は鮮明な夢を見たそうです: 風の強い暗い夜、ロシアの特殊部隊の一団が海岸に上陸してきました。風が吹き荒れているにもかかわらず、彼は近くの砂丘からロシア人の声が聞こえたそうです。

軍の秘密作戦の可能性を懸念した彼は、テントの隣に停めてあった車に乗り込み、グローブボックスにしまってあった装填済みの拳銃を取り出しました。パニック状態に陥った彼は、仲間のキャンパーたちに砂丘から逃げ、内陸に避難するよう警告しました。そして身の危険を感じた彼は、ロシア人の声がする方角に向かって発砲しました。

悲劇的なことに、彼は意図せず、外に残りキャンプファイヤーの反対側の椅子に座っていた友人を撃ってしまったのです。自分の重大な過ちに気づいた彼は、すぐに出血を抑えようと銃創を圧迫しました。しかし、悲しいことに、救急隊員が到着したときにはすでに手遅れで、彼は失血死していました。

ボルネマン氏はまた、長旅の間に眠れるようにと、大洋横断飛行中に睡眠薬アンビエンを服用したある男性について話しました。家に着いた彼は、しばらく会っていなかった家族と一緒に過ごしていました。後に夢遊病の状態に陥った彼はキッチンへ行き、恍惚とした状態のまま息子に近づき、ナイフで頸動脈を切断して殺害しました。彼が完全な認知能力を取り戻したのは、それから数時間後、警察署の取調室でのことでした。

アンビエンは最も広く使用されている処方催眠薬であり、約380万人の米国人が使用していると報告されています。同薬は、睡眠時随伴症、幻覚、健忘などの望ましくない副作用のほか、非常にまれなケースでは、殺人を含む常軌を逸した暴力行為を引き起こすこともあります。

睡眠に関連した暴力犯罪

ボルネマン氏らは、睡眠時随伴症や睡眠時の暴力について調査し、議論してきました。2019年の論文では、睡眠中に起こった暴力事例を調査し、こうした行動の一因となる睡眠のさまざまな状態を探りました。また、無意識状態で勝手に行動してしまう自動症についての医学的理解と法的理解のギャップを埋めることを試みています。

ボルネマン氏らによれば、自動症は罪に問われるか、問われないかの境界を曖昧にすると言います。そして、睡眠に関連した犯罪疑惑で最も多かったのは、性的暴行、殺人・過失致死または殺人未遂、飲酒運転であったと述べています。

症例報告の別のレビューによれば、睡眠中の暴力や性的暴行などの犯罪行為は、複雑な医学的・法的問題を引き起こすことが示唆されています。このような睡眠に関連した犯罪行為は、いずれも本人の意識が完全でない状態で発生する可能性があるため、多くの法曹関係者が「加害者は本当に自分の行為に責任を負うことができるのか」という疑問を抱いています。

睡眠時随伴症を理解する

ボルネマン氏はエポックタイムズに「睡眠法医学は、被告人の精神状態(被告人が自分の行動を認識していたか、被告人は申し立ての時点で適切な認知能力を有していたか)について、裁判所に意見を提供するものである」と述べています。

彼はさらに、急速眼球運動(レム睡眠)またはノンレム睡眠中に起こりうる睡眠時随伴症について説明しました。

ノンレム睡眠時随伴症には、睡眠状態で歩く「夢遊病」があります。レム睡眠行動障害(RBD)はレム睡眠時随伴症の一例であり、夢を見て行動する傾向があります。ボルネマン氏は、ノンレム、レム睡眠時随伴症の両方が、攻撃的傾向を伴う目的意識の強い行動として現れることがあると指摘しました。睡眠時随伴症は、「不規則な睡眠習慣、睡眠不足、ストレス」によって生じると博士は付け加えています。

夢遊病の危険性

夢遊病の専門家であるジョン・ランボルド氏は、エポックタイムズに次のように語っています。

「睡眠時随伴症の患者は、寝室を間違えて入ってしまったり、ゴミ箱に排尿してしまうなど、恥ずかしい思いをすることはあっても、通常は無害なものです。人に怪我をさせたり、性的危害を加えたり、あるいは殺人を犯すのはレアなケースです」

夢遊病に関連した犯罪の医学的・法的意味合いについて博士論文を完成させたランボルド氏は、夢遊病者と対面することになった場合、攻撃的な反応がある可能性があるので、立ち向かったり、起こそうとしたりしてはいけないと読者に伝えています。その代わりに、そっとベッドに戻るように誘導することが大切だとしています。

研究者、エッセイイスト。「ニューヨーク・ポスト」や「シドニー・モーニング・ヘラルド」「ニューズウィーク」などに寄稿歴多数。