【大紀元日本11月16日】歌川広重の『名所江戸百景』の中に、「浅草田甫酉の町詣」と題された1枚がある。
ここはどこかと尋ねれば、なんと江戸は浅草の近く、遊女の里として有名な吉原の妓楼なのである。部屋は、おそらく2階であろう。木格子のはまった窓越しに眺める外の景色。広重の好きな富士山をはるかに望み、晩秋の夕暮れの空を雁が飛んでゆく。
遊女の姿はそこにない。ただ、決して自由の身ではないその境遇を暗示するように、広重は窓の外を凝視する丸い猫を配置している。窓辺にかけられた手ぬぐい、畳の上の飾り簪は、いままでそこに持ち主がいたことを窺わせる。
簪の主は、そのような妓楼の窓から、大鳥(鷲)神社の酉の市へ参詣する人々を、遠く眺めていたのだろう。暫しの間、窓の外を見ていた遊女は、やがて無言のまま窓際を離れ、今は左手の屏風の陰で目を伏せているらしい……。というような想像だけで十分物語になる見事な一幅である。これこそ江戸っ子が好む、上品な色気の極致であろう。
さて時代は下って今は平成の世。11月7日、東京・浅草の鷲(おおとり)神社で、今年も恒例の酉の市が開かれた。
「春を待つ、ことのはじめや酉の市」と、松尾芭蕉の門人である宝井其角が俳句に詠んだように、11月の酉の日に催されるこの例祭は、来年の新春に向けて一足早く年の瀬の始まりを告げる行事として、江戸の昔から多くの人に親しまれてきた。
境内とその付近には100店を超す店が軒を並べ、華やかに飾られた熊手を売っている。
開運や商売繁盛の縁起物である酉の市の熊手は、発展を願って年々大きいものを購入すると言われている。高額の熊手が売れると威勢のよい手締めがかかり、祭りの雰囲気は一層盛り上がっていた。
今年の酉の市は、11月7日の一の酉と19日の二の酉の2回。開催時間は両日とも、午前0時から午後12時まで。地下鉄日比谷線入谷駅徒歩7分。
色とりどりの熊手は見ていても楽しい(写真=大紀元)
周囲の人も一緒に「いよーっ」と手締め(写真=大紀元)
酉の市で賑わう熊手を売る店(写真=大紀元)
※『名所江戸百景』 江戸末期の浮世絵師・歌川広重(1797~1858)が、最晩年の1856年から58年にかけて制作した連作の浮世絵。作者の死後、未完成のまま残されたが、二代目広重の手も加わって完成された。目録表紙と117枚の図絵(二代目広重の2枚も加えると119枚)からなる。
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