【伝統を受け継ぐ】節句人形「人形工房松寿」

【大紀元日本5月28日】東大阪市の商業の中心地、布施。その布施の商業地区をわずかに離れた住宅地に「松よし人形」と看板を掲げた社屋が建つ。株式会社「松よし人形」の代表取締役であり、「人形工房松寿」を主宰する節句人形工芸士、小出康雄さん(号・松寿)を工房に訪ねて話を聞いた。

建物に入ってすぐのところで迎えてくれたのは、何と武者人形のロボットだった

武者人形ロボット(撮影・Klaus Rinke)

。おもむろに立ち上がり片手をあげ「ようこそ、松よし人形へ」と声がかかる。これは、小出さんが企画した伊達正宗の動く武者人形で、衣装・小出松寿、鎧兜・大越忠保に、「まいど1号」という人工衛星を開発した地元東大阪の日本遠隔制御株式会社がメカニックを担当してできたコラボレーションだ。「いや、これは売り物ではないのです。欲しいとおっしゃる方もあるのですが、メンテナンスまで責任が持てないのでお断りしています」と小出さんは言う。小出さんの「お楽しみ」といったところだろうか。

この日、五月人形らしいものを見たのはこのロボット一体のみで、あとは展示室も工房のなかも、来年の桃の節句に向けてひな人形一色である。一階の陳列台には市松人形がずらりと並ぶ。例によっておかっぱ頭の古典的なものから、現代人好みの「カワイ―系」の物まで、着ている振袖も本仕立ての物、上下に分かれたツーピース仕立ての物、品質、柄も実に様々である。二階にある大きな展示室には、隅から隅までぎっしりとひな人形が並ぶ。「松よし人形」の主力商品である。

小出さんがこの業界に入ったのは50年近く前のことである。義母で「松よし人形」初代代表の小出愛さんが交通事故にあったのは、康雄さんが20代前半の頃であった。まだ人形のことも業界のことも十分には分からないながら、愛さんの右腕として「松よし人形」を支えることになる。大阪の人形業界の中心は、人形・玩具問屋が集まる松屋町、こちらを通すことなく大阪で人形を商うことはできないと言われていた。松屋町の人形問屋も、伝統産業の例にもれず保守的な世界で、20歳を出たばかりの若造をまともに相手にしてくれる世界ではなかった。

納得が行かない小出さんは直ちに次の行動を起こした。夜行列車に乗って東京へ向かったのだ。東京には創業300年、160年を誇る老舗がある。まさに日本の人形業界トップともいえる問屋である。話はすんなりと通じて、以来、取引は今日に至るまで途切れることはない。「トップと話すのが近道だと分かりましたね。もちろん、それにはトップが納得する品質であることが条件になりますが」と小出さん。

現在、「松よし人形」の販売ネットワークは、北は北海道から南は九州まで、全国のデパートや大手の問屋を網羅する。小出さんが構築してきたネットワークは販売網だけではない、人形の材料を提供する職人とのネットワークも国内に留まらないという。「いい材料があると聞くと、すぐに飛んでいきますよ」という小出さんが50年かけて作り上げたネットワークが「人形工房松寿」の品質を支えている。

人形作りは分業で行われる。頭の部分を作る頭師、髪を結う髪付師、手足を作る手足師、扇や太刀などの道具を作る小道具師、そして着物を着せる着付け師。「人形工房松寿」では企画と最後の着付けをして商品を完成させる。

人形工房(撮影・Klaus Rinke)

その他の工程は京人形師、伝統工芸士など現代の名工に発注する。

「松寿」の広い工房の中でも、20人のスタッフがそれぞれ異なる工程を分業している。1番奥に企画・デザインを担当するデザイナー、次に人形の衣装を柄合わせしながら裁断する裁断担当者、次々とスタッフの手を経ていくうちにひな人形が出来上がっていく。最後に入り口に近いところに小出さんが座り仕上げをする。衣装を全部つけたひな人形に姿の美しさと気品・威厳などを与えるのは、「かいな折り」と呼ばれる作業だ。桐の胴体に横一文字に取り付けられた針金の腕、これを肩のところ、次に肘にあたる部

男雛のかいな折りをする小出さん(撮影・Klaus Rinke)

分を折り曲げることによって自然で美しい姿になる。

「男雛のかいな折りは全部私がやります。手が変わると微妙に違ってくるので、お客様から指摘を受けます」と小出さん。「職人は無駄な作業はできるだけ排して簡素化するのですが、ここというところではひと手間かけるのです。職人のこだわりですね」。このあたりにも「松よし人形」の品質の秘密があるのだろう。

市松人形(撮影・Klaus Rinke)

50年間二人三脚で人形を作ってきた妻、豊子さんと一緒に(撮影・Klaus Rinke)

ひな人形(撮影・Klaus Rinke)

ひな人形展示室(撮影・Klaus Rinke)

市松人形(撮影・Klaus Rinke)

市松人形(撮影・Klaus Rinke)

ひな人形(撮影・Klaus Rinke)

ひな人形(撮影・Klaus Rinke)

(温)