シベリア鉄道延伸計画 日本と北朝鮮が鉄道で結ばれる?
世界一長いシベリア鉄道が、さらに延びる計画がある。ロシア政府は、シベリア鉄道を北海道まで延伸する計画について、日本側のパートナー企業を探している。実現すれば、ユーラシア大陸を横断する鉄道ネットワークが、英ロンドンから東京まで繋がることになる。いっぽう、日本政府や鉄道会社は、実現する見通しの低さからか、コメントを出していない。
ロシアのシュワロフ副首相が9月6日、ウラジオストクで開催された「東方経済フォーラム」で、9300キロのシベリア鉄道の延伸計画に言及した。「北海道からサハリン南部をつなぐインフラ建設を検討できる、日本のパートナーを真剣に募っている」と述べた。
あまりに壮大な構想は、数年前からロシア政府やメディアが「両国で検討している」と取り上げてきたが、これまで、日本政府や鉄道会社は公式コメントを出したことはない。
日本の鉄道に接続するには、まずロシア本土とサハリンの最狭部を結ぶ4キロの橋、そして、サハリンと北海道稚内の宗谷岬を結ぶ42キロの橋あるいはトンネルの建造が必要となる。さらに、シベリア鉄道は東部の都市ハバロフスク止まりで、ここからロシア最東部の支線の駅につなぎ、サハリンを縦断して日本につなぐには、1000キロ以上の線路を敷く必要がある。
ロシアはソ連のスターリン時代から、天然資源のあるサハリンと本土を、橋や鉄道で繋ぐことを望んでいた。しかしながら、人口も経済も減退するサハリンだけのために、ロシア政府も大型インフラに踏み込めない。そこで、日本に対して、欧州への物流の効率化とロシアへの経済的可能性にアクセスしやすくなることを引き合いにして、計画の実現を狙っている。
ロシア紙によると、計画の投資額は総額120 ~150億ドルと見積もられ、建設工事は7年かかる見込み。シュワロフ副首相は建設費について「現代の技術を考えれば、それほど高額にならない」と実現に自信を示している。
日本と北朝鮮が鉄道でつながる?
いっぽう、ユーラシア大陸を太い脈として、各国の鉄道へつながるシベリア鉄道が今回、日本に延びれば、北朝鮮とも線路が繋がることにもなる。日本政府は慎重な姿勢をとる必要がある。
ロシア政府と金正日総書記時代の北朝鮮は「露朝モスクワ宣言」で、シベリア鉄道は朝鮮半島縦貫鉄道と接続することに合意している。
さらに、2013年9月、ロシアと北朝鮮を結ぶ近代化した越境鉄道「ロシア極東のハサン~北朝鮮の羅津(ナジン)」全長54キロの間が開通した。このルートは、中国と北朝鮮、ロシアの石炭輸送ルートにもなっており、今年、取引量は大きく増えた。羅津は北朝鮮の経済特区で、中国やロシアをはじめとする外国資本と北朝鮮の合弁会社が置かれている。
このハサン~羅津ルートの石炭輸送量は、2015年に約120万トンだったのに対し、2016年には170万トン、2017年1~5月はすでに110万トンに達した。
ロシアは、中国習近平政権との貿易の穴埋めをしているとの見方もある。ロシア連邦関税局統計によると、2017年上半期、北朝鮮に輸出した石油製品は約4304トン、約240万ドル(約2億6000万円)に達し、すでに昨年比2倍以上となった。米国連大使ニッキー・ヘイリー氏は6月、ロシアが中国の代わりに北朝鮮を支援する可能性があるとの懸念をしめしている。
日露関係 経済協力は進展するも領土問題には見通し立たず
9月7日、安倍首相は東方経済フォーラムで、「過去70年できなかったことが、この1年で幾つも動き出した」と述べ、プーチン大統領を「ウラジーミル」と名前で呼び、日露関係の向上をアピールした。日本の北方領土(ロシアの南クリル諸島)の絡んだ領土問題をふくむ平和条約が結ばれていないことについて「異常な事態で、終止符を打ちたい」と述べた。
しかし、今回の東方経済フォーラムでも、2016年秋に発表した日露8項目の経済協力プランにも、シベリア鉄道日本延伸計画は言及も記載もなかった。安倍首相がロシアとの関係向上をアピールしても、この計画に関しては実現性を否定的に見ているといえる。北海道旅客鉄道(JR北海道)と日本貨物鉄道(JR貨物)も、何の見解も示していない。
ロシアは、国内の低迷する経済を上向きにするため、日本の投資を呼び込みたいと考えている。同国メディアは、プーチン大統領がこの鉄道計画に「本気で取り組む」姿勢であると報じている。
日露関係は、政治的要素に影響される。ロシアは現在、ウクライナ情勢の介入で米国と欧米から経済制裁を受けており、NHKは現地企業の話として、日本政府の輸出管理も厳しくなり、物流には以前より時間がかかるようになったと報じた。6回目の核実験を強行した北朝鮮に対して、国連はより厳しい制裁を科しており、米財務省は8月、北朝鮮と取引するロシア企業と個人に対して、経済制裁を決定した。
シベリア鉄道の日本延伸計画も、「ロンドンと東京を結ぶ鉄道」と壮大な聞こえの良さが強調されがちだが、政治的影響力を避けることは難しい。ロシアは、日本と平和条約が締結されていないことや、欧米からの経済制裁を向けられていることなど、不安定要素を多分に抱えた鉄道計画を日本に提示している。
(編集・佐渡道世)