第一章 メディア

真相を抑圧する邪悪の根(張錦華)

米国のリンカーン大統領は、かつて「人民に事実を知らせることが、国家を安全にする」と語った。この言葉は、米国のニュージアム(報道博物館)に刻まれている。しかし、言論の自由および真実を報道することを抑制する中国共産党の専制政権は、中国本土のメディアを厳しくコントロールするだけでなく、更に言論抑制の黒い手を自由社会にも伸ばしている。

 まず台湾で起きた実例から言及しよう。

2010年8月、台湾法輪功弁護士団は史上初めて、訪台した省長クラスの中国共産党(中共)高官を台湾高等裁判所検察署に告発した。刑事告発の対象は、代表団を率いて台湾を訪問した広東省長・黄華華。告発理由は、彼が「大量虐殺罪」を犯し「人権規約」に違反したことに加えて、彼らが法輪功迫害を停止するよう要求するためである。広東省は法輪功弾圧が最もひどい省の一つだ。その手段も残酷で、迫害で死亡した法輪功学習者は、証明されているだけで当時すでに75人に達している。傷を受け、障害を負った人も数えきれない。黄華華は広州市委員会書記に就任した時から、複数回にわたり自ら指揮を執って命令を下し、迫害の実施を采配した。甚だしきに至っては、台湾のある法輪功学習者が親族訪問で中国本土に帰った時、不当に拘束されたのである[1]。

 台湾はずっと「人権立国」を公言し、2009年には国際人権規約法案および同施行法法案を通過させた。このような酷い人権迫害事件の告発、さらには訪台した中共高官への告発は初めてのケースであり、本来ならメディアが重視すべきことであった。しかし、台湾の四大新聞社のうち、3社はほとんど報道しなかったのである。すべての主要な商業テレビ局も同様であった。それどころか、中共の人権迫害の事実を回避するこれらのメディアは、大見出しで「本土一豊かな省のリーダー」が台湾に来た、数十億ドルの仕入れを行い、至るところで「同郷の人を訪ね、本土民衆こぞっての台湾観光をスタートさせた」などと報じた。言葉の行間には、金銭や利益への憧れや喜びが溢れている[2]。その一方、中国本土の独裁専制や貧富の格差、汚職の横行、人倫道徳の崩壊に対しては、見て見ぬふりをするのだ。

 実のところ、それらは特殊なケースではない。長期にわたり、台湾メディア、さらには自由社会のメディアさえも、中国における法輪功弾圧についての報道は極めて少ないうえ、一部の報道は往々にして事実をねじ曲げている。甚だしきに至っては、中共が海外にばらまく虚言と侮蔑の拡声器に成り下がったものもあるのだ。

 メディアはなぜ法輪功の真相を報道しないのか。どうして自由社会のメディアが、自由ではなくなったのか。赤色の中国は、どのように自由社会のメディアを屈服させ、自ら制限を設けさせたのか。それによる人類社会への影響は、果たして如何なるものなのか。それを変え得る契機は、どこにあるのか。以下でまず、中共が自由社会のメディアをコントロールする方法から述べる。

(1) メディア所有権を買収し、中共の代弁者にする

 台湾の旺旺中時というメディアグループが典型的な例である。2008年、台湾のメディアグループ・中国時報(中時)は、熾烈なメディア競争とネットメディアの急速な発展、および自社の経営不振のため、急遽売却しようとした。そこで中国大陸から来た台湾商人である蔡衍明が、高額で同グループを買収した。

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