中国国有企業で電力ネットワーク大手の国家電網(STATE GRID)、参考写真(GettyImages)

韓国電力のインフラに参入試みる中国企業 エネルギー安全保障の懸念

韓国メディアはこのほど、韓国電力技術部の関係者への取材で、本来は入札不可能な韓国電力の海底ケーブル事業に中国国営企業が参入する動きがあると報じた。中国本土からの遠隔操作で国内電力が操作されているフィリピンの二の舞になるのではないかと、韓国のエネルギー業界では懸念が広がっている。

経済誌「コリアトゥデイ」の報道によると、韓国電力は、莞島(ワンド)ー済州島(チェジュド)区間第3超高圧全直流(Y3HVDC)海底ケーブルの国際入札の告示を準備中だ。これについて、公示前にもかかわらず、非公開のプロジェクトの技術評価会に、中国企業が招待されているという。具体的にどの企業かは報じられていない。

中国は世界貿易機関(WTO)に加入しているが、WTO政府調達協定(GPA)に登録されていない韓国の調達事業には、参加資格がない。また、韓国国内の電線会社としても中国企業は加盟していない。

2月、韓国電力インフラに中国企業が参加意向とのニュースは、韓国社会では物議を醸した。同月26日、韓国大統領府公式サイトには「中国企業の韓国電力事業への参入はルール違反」という請願書が立ち上がった。

請願を提出した市民団体は、「インフラ事業はエネルギー安全保障の問題を伴い、中国企業の軽率な参加は許されない」と主張し、抗議の声を上げている。

「5年後、10年後、海底ケーブルに深刻な問題が発生したとき、わが国のエネルギー需給に影響が出ても、中国企業が対策しなければ、解決策がなくなる」と、原子力量子工学教授のチョ・ユントン氏は書いている。

中国メーカーの国内電力市場進出への懸念は、2019年6月にも、通信業界で一度議論になったことがある。

大韓電線の私募ファンドIMMプライベート・エクイティ(PE)が、会社の売却を進めるなか、青島や寒河などから中国の電線メーカー5社に買収を打診していた。この買収案は、韓国の技術流出が懸念された。

大韓電線はLS電線とともに、世界5カ国の7社だけが保有する500キロボルト(kV)級以上の超高圧ケーブル電線技術を持つ。まだ中国では確保できていない技術で、大韓電線が中国メーカーに買収されれば、この技術も中国へ渡ることになる。

中国業者が超高圧ケーブル電線技術を吸収して、韓国市場に進出すれば、中国政府の補助金が支える廉価な中国製品が韓国中小企業を圧迫するとの懸念が広がった。

さらに、国家の要となるインフラエネルギーシステムに中国企業が参入することは、国家安全保障上の問題も起きるとの見方も出ていた。 米国は、電力インフラ技術を国家安保技術に指定して保護している。

当時は、この電気産業振興会と電線業界が500キロボルト級の電力ケーブル技術について、国家核心技術指定を要請し、政府の産業通商資源部が保護を承認したことで、買収案は流れた。

国際データ通信の95%は海底ケーブル

海底ケーブルは、海底に敷く光ファイバー線の束であり、現在、世界に約380本ある。世界規模のインターネット、音声通話、データトラフィックの95%を伝送しており、地球規模のネットワーク網を支え、各国の経済、安全保障、国家インフラに欠かせない技術となっている。

かねてから、野心的な中国企業が通信市場を占有しようとする動きについて、米当局や議員らは問題視するよう声を上げていた。

中国共産党政権が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」の一つにも、海底ケーブルは含まれる。アジア、アフリカ、欧州に関わる海底ケーブルや地上・衛星回線を「デジタル・シルクロード」と呼び、インフラ建設を進めている。

中国の通信技術大手ファーウェイ(華為科技)は2019年、海底ケーブル事業は、中国政府に近い国内企業に売却している。米ウォール・ストリート・ジャーナルは同年3月、米政府高官の話として、ファーウェイが海外を含む海底ケーブルの統制権を握れば、中国共産党によるデータ操作や監視を受ける可能性があり、中国共産党の都合で、特定地域のネットワークを遮断する可能性もあるとの懸念を報じた。

「ボタンひとつで」すべての電力が中国企業により遠隔操作されるフィリピン

フィリピンでも中国企業による海底ケーブル、電力事業および安全保障上の問題が議論されている。同国上院議会では、中国企業が事実上フィリピン電力網を掌握しており、「ボタンひとつで」いつでも電力網を無力化することができるとの報告が出されている。

フィリピンは2009年、全世帯の78%に電力を供給する「フィリピン国家送電会社(NGCP)」が民営コンソーシアム(共同事業体)に売却され、中国国営企業の「中国国家電網公司(SGCC)」が40%の株式を保有し、筆頭株主となった。

議会の報告によると、民営化後の10年間で、中国SGCCがフィリピンのNGCP電力システムの核心技術とソフトウェアを中国企業製品に取り換えたため、中国のエンジニアだけが操作できる仕組みに変えたという。

フィリピンのNGCPを制御するシステムは中国の南京にあり、運営と管理は、関連の技術を独占した中国のエンジニアが担当している。フィリピンの技術者は核心システムのアクセス権限さえなく、中国語で作成された非常マニュアルを英語に翻訳し、一部の運営だけが参加している。

フィリピン上院エネルギー委員会のガチャリアン委員長は、CNNのインタビューに答え、「理論的には、中国がボタン一つ押せば一般住宅はもちろん工場、企業、さらには軍事施設も電気オフにできる」と述べた。つまり、中国本土から遠隔でフィリピンの電力状況を統制できる状態だという。

フィリピン現地メディアは、中国企業はフィリピンの送電事業で、2018年までに1800億ペソ(約4兆2千億ウォン)の利益を上げ、新規または進行中の電力関連プロジェクトのうち43個を受注するなど、中国企業の独占が深刻だと指摘した。

(翻訳編集・佐渡道世)

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