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80歳校長先生の家庭教育(2)

昔の4つの教えが知恵を開く

中学の子供の保護者会に参加し、80歳の校長先生から伺った、日本の企業家の門倉清次郎氏の子供のころの話、彼の母親の言動、日本古来からの教育方法、これらを聞いて、とても勉強になりました。

80歳校長先生が教育方法を伝授

現校長先生の紹介によると、この80歳の元校長先生は、彼の恩師であり、千葉県出身の有名な教育者だそうです。かつて多くの学校で校長先生を務め、今回は子供の教育方法を伝授して頂こうと、この保護者会に招いたそうです。

毎年4月は新年度で、仕事の昇進や、学生の進学など、全てこの月にあります。私は普段仕事が忙しいので、あまり学校の活動に参加できませんが、今回の保護者会は3月に開かれ、今年度最後の保護者会であり、また、学校側から生徒のこの1年間の状況の報告もあります。そして、来年度になると、息子は中学2年に上がり、担任の先生も変わるので、現担任の先生への御礼とお別れも兼ねて参加しました。

保護者会の最後に、現校長先生から家庭教育に関する問題が挙げられました。それは、今の子供たちが毎朝校門に入ってきたとき、挨拶してくる先生を無視したり、挨拶を適当に済ましたり、目を合わせなかったりという問題です。

校長先生の話を聞いた時、大したことではないと思いました。しかし、学校側は子供たちの校内生活や成績の報告よりも、わざわざ前校長先生を招き、大半の時間をかけて子供教育の知恵を伝授してもらうほど、子供たちの家庭生活を重視しているのです。

そして、子供たちの礼儀の問題に言及した時、現校長先生の口調からは批判や譴責、圧力など全く感じられず、私たち保護者よりも子供たちのことを気にかけているような雰囲気でした。ある先生はこのように語りました。「生徒たちの冷たい挨拶を聞いて、誰も構ってくれなくて、とても寂しいです。みんな目も合わせてくれないから、本当の意味で独りぼっちだと感じました。毎朝、元気で明るい生徒たちを見て、今日というその1日を楽しく過ごしてもらいたいです。生徒たちの明るい挨拶が聞こえれば、私も元気に明るくなれますし、活力が沸きます」

先生の悲しそうな口調と表情を見て、その場にいた保護者達は笑い出し、正しい礼儀の重要さを理解しただけでなく、気軽に先生からの指摘も受け入れることができました。

これこそ、前校長先生が招かれた本当の理由なのです。担任の先生を尊重する気持ちで今回の保護者会に参加しましたが、意外な収穫がありました。

問題解決のカギはその問題自身にはない

前校長先生が私たち保護者に伝授したのは、難しい理ではありません。誰にも理解できる4つのフレーズでした。しかし、この簡単な言葉こそ子供の一生を包括し、子供教育のカギとなったのです。

前校長先生の演説は最後まで、どのように子供に催促するか、厳しくするかに触れず、却って、保護者がどのように子供を教育するか、接するかを話しました。前校長先生によると、両親からの穏やかで理性的な気配りや日常生活における些細な出来事からの教えが、子供たちを積極的で健康な精神状態と善良な人間性に導くことができ、将来、社会に入っても、誤った道に行かないのです。

前回、前校長先生が話した有名な企業家の母親は、まさに理性的に物事に対処し、親としての責任を背負い、文句を言わず、家族1人1人の気持ちを配慮するなど、身をもって、笑顔で困難に立ち向かい、負うべき責任から逃れず、告げ口をせず、人の悪口を言ったりして相手を傷つけるようなことをしないなどの理を子供に教えました。このように母親に守られた子供も、大人になればきっと同じような人間になり、そして、無意識のうちにリーダーシップを養いました。

この物語は、私たち両親の責任や、自分たちの行いが常に子供に影響していること、子供の将来の成敗にかかわっていることを説いています。

4つの教えが知恵を開く

では、前校長先生が伝授した4つの教えとは何でしょうか。

1つ目は、乳児期においてスキンシップが最も大事なことです。2つ目は、幼児期において、手を離さないことです。3つ目は、学童期において手を離しても、目を離さないこと、そして、4つ目は、青年期において、目を離しても、決して心を離さないことです。

前校長先生によると、乳児は初めてこの世に訪れて、話すことも歩くこともできないため、コミュニケーションが難しく、不安になりがちです。その時、両親からの抱っこやスキンシップが赤ちゃんにこの上ない安心感と喜びをもたらすことができ、不安や孤独を感じなくなるのです。幼児になると、歩けるようになり、全てのことに好奇心を持ち、そして、基本的な願望や気持ちを伝えることができるので、自立心が生まれ、独立しようとします。しかし、危険を知らないので、少しでも目を離すと、姿を見失うことがあり、非常に危険なので、手を離してはいけません。また、物を食べたり飲んだり、トイレに行ったり、服を着たりなどの基本的な生活能力も一から教えなければなりません。

学童期はいわゆる反抗期で、これも難しいことはなく、ただ理性を保つことが大事です。この時期の子供は基本的な生活の能力を持ち、最低限の礼儀を知っているので、親は全てのことに介入しようとせず、手を離しても大丈夫でしょう。しかし、まだ未成熟なため、挫折に遭うと何か問題を起こしかねないので、この時は保護者からの心配や、配慮などが必要になり、子供に自分たちが常にそばにいるという安心感を与えることが大事です。子供に一定の空間と信頼を与えますが、目を離さず、適切な時に指導や慰め、励ましをしてあげると、子供も過激な反抗をしなくなるでしょう。

青年期になると、子供は独立しますが、孤独を感じさせないように、連絡を取ったり、心配したりなど、どこにいても親がそばにいる、家族の繋がりは絶えないということを教えなければなりません。ですので、目を離しても、心を離さないというのです。

これらの4つのポイントこそ、昔からの子供教育の精髄です。常に子供の精神状態を気にかけながら、子供の立場になって考えるようにし、孤独を感じさせないよう取るべき距離を測り、理性的に子供を社会で独立できるような一人前に育てるのです。

極めて簡単な4つの教えですが、家庭教育のすべてを包括しました。その重点は理性と寛大な愛なのです。

(続く)

文/劉如

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私は中国人で、私の子供は日本育ちです。私は未だになぜ日本の学校と保護者の関係がこれほど緊密なのかが理解できず、そして、子供の日常生活や教養を授業の成績並みに重視しているのかもわかりませんでした。 しかし、ある日、中学校に上がった息子の保護者会に参加し、そこで80歳の校長先生から日本の有名な起業家の方の子供のころの話を聞き、はっと悟りました。