(EMMANUEL DUNAND/AFP/Getty Images)
≪医山夜話≫ (17)

ナンシーのカルテ⑤

 ナンシーは引き続き治療を続けており、結果がどうなるかは誰も予測することができません。死神に設けられた関門を乗り越え、九死に一生を得られるかどうかは、彼女自身が決められる事ではありません。彼女が遭遇した様々な困難は、彼女が蓄積してきた過去からの業による結果にみえます。私の理解では、過去の人生や今の人生で、ナンシーが作り出した業が彼女の命を脅かしており、その苦しみにより彼女はその借りを返しているのです。医師として、私にできることは、彼女がそれを理解し受け入れられるようにアドバイスすることだけです。「もっと善良な心で人に接しなさい」と。

 よく人から、「なぜ人はがんになるのか」と聞かれますが、現代医学から解釈すれば、さまざまな要素が挙げられます。例えば、遺伝、喫煙やアルコールなどの生活習慣、環境汚染、食事、性格などです。しかし、これだけではがんの根源を説明することはできません。がんの根本的な原因は、別の空間に存在する「業」であり、現代のテクノロジーを駆使しても、触れることも見ることもできないものです。

 私は、ナンシーの病気を治療する過程で、これまでに気づかなかった問題点を発見しました。それは、多くのがん患者に共通するものですが、つまり、彼女は生活の中でぶつかった様々な気に障った事柄を、長期にわたって自分の心に留めておくことです。人は、時として気に障るような言葉を投げかけられたりするものですが、がん患者たちは、それらの言葉を決して忘れず、いつまでもその恨みを抱きつづけているのです。

▶ 続きを読む
関連記事
がん治療は臓器別から「遺伝子別」の時代へ。NGSによる遺伝子検査は、がんの弱点を見つけ、新しい治療の可能性を開く重要な手段です。がん種横断治療の仕組みとその意義を解説します。
ただの雑草と思っていませんか?タンポポは食卓を彩り、肝臓や腸を助け、抗炎症・抗がん研究も進む実力派ハーブ。身近な黄色い花の意外な歴史と効能、上手な取り入れ方を紹介します。
進行が速く「がんの王」とも呼ばれる小細胞肺がん。それでも転移を繰り返しながら長期生存した例があります。免疫療法や最新検査ctDNAの可能性、見逃せない症状と予防のポイントを医師が解説します。
「1日1万歩は無理…」と感じている人へ。最新研究が示すのは、七千歩でもがんや認知症リスクが大幅低下するという現実的な健康習慣。忙しい日本人の生活に合う、続けやすさと効果の理由を分かりやすく解説します。
がん細胞は糖だけでなく、脂肪やアミノ酸など複数の燃料を使い生存します。研究者は、この代謝の柔軟性を断つ新たな治療戦略に注目しています。