米軍が遺棄した車両に乗るタリバン戦闘員 (Photo by HOSHANG HASHIMI/AFP via Getty Images)

タリバンとパキスタンの知られざる国境問題(四) タリバンの思惑とパキスタンの誤算

アフガニスタンパキスタンの間には、「デュランド・ライン(Durand Line)」と呼ばれる細長い紛争地帯がある。8月、政府軍の抵抗もむなしくカブールが陥落すると、新しく政権を樹立したタリバンは隣国パキスタンとの領土問題を持ち出した。そして、アフガニスタン人は現在の国境を認めていないと発言した。

実は、タリバンの指導者の多くはパキスタンに拠点を構えていた。隣国を制圧してすぐ、「本国」ともめるのは一体どのような考えに基づく行動なのか。アフガニスタンとパキスタン両国の間に存在する一本の境界線について、専門家の見解を交えつつ、その歴史を紐解く。

いっぽう、インドのウサナス財団(Usanas Foundation)のCEOであり、『インドの過激化(Radicalization in India)』の著者であるアビナブ・パンディヤ氏(Abhinav Pandya)は大紀元の取材に対し、タリバンがドゥランド・ラインに反対するのは、アフガニスタンの民族主義者の感情を国内で消費するためだと語った。

「アフガニスタンでは、民族意識やナショナリズムの存在が非常に重視されている。それゆえ、タリバンこそ外国人を追放した自由の戦士だと考えている人も多いのが現実だ。今の状況では、デュランド・ライン問題でパキスタンとは真逆の立場を取ることで、自らをさらけ出し続けたくないのだ。もしそうなれば、外国勢力であるパキスタンの手先や代理人がアフガニスタンを支配していることが露呈するだろう」。

パンディヤ氏はまた、たとえタリバンがデュランド・ラインを快く思わなくても、デュランド・ライン上で「パシュトゥーン人の反乱や反パキスタン騒乱を煽ったことはない」と述べ、タリバンの発言を深読みする必要はないとの考えを示した。「これは(タリバンが)道徳的な顔を見せて、自分たちがあたかもアフガンニスタンのナショナリズムの擁護者であることを示すための姿勢にすぎない」。

パンディヤ氏は、タリバンの立場を理解する上での注意点として、イスラム教は国民国家という考え方を認めていないことにも注意すべきだと付け加えた。

「ウンマ(イスラム教徒の集合体)は一つしかないという過激なイスラム思想を信じるタリバンは、大規模な過激化が進んでいるパキスタン社会にも影響を与えるだろう。また、タリバンの宗教的イデオロギーはデーオバンド派(※)であることも忘れてはならない。デーオバンド派はパキスタンに多大な影響力を持っており、その起源はパキスタンの建国よりも古い。タリバンはパキスタン軍のコントロールから外れるかもしれない。聖戦主義の急激な広がりは、将来的にパキスタンにとって問題となるだろう」。(全文完)

(文・Venus Upadhayaya/翻訳編集・田中広輝)

【用語解説】

※デーオバンド派

19世紀後半に起こったスンナ派イスラム改革運動で、北インドのウッタル・プラデーシュ州デーオバンドに位置するイスラム宗教学校関係者によって形成されたスンニ派の一派。インドやパキスタンで有力な派閥であり、タリバンの指導部はパキスタンにある同派の学院で学んでいたことが知られている。

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