その名も高き「香油の王様」乳香の効能と利用法
乳香(にゅうこう)は、「精油之王(エッセンシャルオイルの王様)」と呼ばれています。
その歴史は紀元前から
古くから体を癒す用途で乳香が使われていたことは、紀元前1500年頃の、古代エジプトのパピルス文献にも記録されています。
漢方医学では、乳香を用いて痛みを止めたり、腫瘍の治療にも使われます。
また乳香には、肌をしっとりさせる効果や抗炎症の効果、さらには、その芳しい香りによって精神的ストレスを緩和するリラックス効果もあります。
乳香を採取できる「乳香の木(ボスウェリア属の樹木)」は、東アフリカ、アラビア半島南部、インドの一部の地域に自生しています。ただし、栽培して増やすことが難しいため、野生種を原料として商業的に乳香が生産されている国は、現在ではオマーンに限定されます。
乳香の採取方法は、「乳香の木」の幹に切り込みを入れると、切り口から乳白色の樹液が出てきます。その樹液が空気に触れると固形の樹脂になります。
樹脂の段階からすでに独特の香りがしますが、さらに蒸留の過程を経て、香り高いエッセンシャルオイルを作ることができます。
10世紀のペルシャ(イラン)の著名な哲学者で医師でもあるイブン・スィーナー(980~1037)は、自らの手による大著『医学典範』のなかで、乳香を使って腫瘍や潰瘍、発熱を治療することを薦めています。
また、それより早い6世紀には、中国の薬草に関する書物『名医別録』に乳香の薬用効果が記載されています。
漢方では「気血の流れを良くする生薬」
漢方医学において、乳香は生薬として数千年にわたる歴史があります。乳香は主に血液の停滞を解消し、血流を良くする際の処方に使われます。
漢方医学において、多くの健康上の問題は「気血の停滞」つまり気(エネルギー)や血液の流れが淀むことによって生じると考えられています。
気血の流れが詰まっていると、体に痛みなどの問題が起こります。乳香には、気血を通じさせる効果がありますので、痛みの治療によく使われます。
うっ血した気がすぐに解消されないと、患部にしこりや腫瘍ができます。
乳香は強力な活血(血の流れを改善する)作用を有するため、腫瘍およびその他の腫瘤の治療にも用いられます。
がん治療に役立つ可能性も
多くの科学者は、乳香のもつ抗腫瘍作用の研究に力を入れています。
また、専門家の研究は、乳香の薬用効果が各種のがん治療において潜在的な可能性をもつことを肯定しています。
医学誌『Complementary Therapies in Medicine』に掲載されたある研究では、「乳香の精油が、ヒトの膵臓に存在するがん細胞の死を誘導する」ことが示されています。
この研究は今後のがん治療、特に予後の悪い浸潤がんである膵臓がんの治療に対して、より自然な治療の選択肢を提供できる可能性があります。
2016年に発表されたある研究の中で、研究者は乳香のなかの成分が、腫瘍に対して増殖を抑制する作用があることを指摘しています。
お湯に数滴たらして「最高のバスタイム」
以下は、自宅で乳香アロマオイルを使用する方法の例です。
1、ストレスの軽減
帰宅後、バスタブにアロマオイルを数滴たらして入浴すると、昼間に緊張していた神経系が落ち着き、精神的にリラックスできます。
就寝前のバスタイムで気持ちをゆったりさせれば、快適な眠りを得ることができます。乳香についても、同様の方法で活用するとストレスの軽減に役立ちます。
2、肌のケア
乳香は、肌のケアや、皮膚の小さな傷の治療にも効果があります。
にきびなどの吹き出物の緩和のほか、しわの予防、肌を自然に引き締める効能もあります。
3、口腔の衛生
乳香は虫歯や口臭を防ぎ、口腔の衛生を保つことで、感染症の予防にも効果を発揮します。
歯磨き粉に乳香油を一滴加えてブラッシングすると、口内の健康を保ち、歯茎を強くするのに役立ちます。
4、抗炎症作用
乳香は炎症を軽減することができます。
研究によると、特に関節炎と関節リウマチに関連する痛みと腫れを緩和するのに役立つと言います。
5、痛み止め
筋肉痛や軽度の打撲で局所が痛むときは、患部に乳香油を滴下して塗布します。
乳香の血流促進と抗炎症の作用が、不快な痛みを緩和します。
6、呼吸器の不調を改善する
風邪をひいて呼吸が苦しいときは、吸入器の水カップに数滴の乳香油を加え、噴霧を吸い込むようにすると気管支が楽になります。
同様の方法で、乳香油は室内を消臭したり、細菌やウイルスを除去することもできます。
ただし乳香は、妊娠中の女性、および消化系に問題のある患者は使用すべきではないとされています。
乳香のもつ強い活血作用(瘀血を取り除く作用)は、場合よっては副作用を生じる可能性があるため、慎重に使用してください。同じ理由により、長期にわたる継続使用もお勧めできません。
(翻訳編集・鳥飼聡)