(大紀元)

高智晟著『神とともに戦う』(10)古びた銅のヒシャク

 

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確かあれは、夏の日の昼ごろだった。私は母について水を汲みに行った。私たちの村の水汲み場は崖の中ほどにある。だが、そこに行くには1人しか通れないほど狭い小道を抜けなければならない。しかも、石の間からしみ出る水を汲むためのヒシャクが必需品なのだ。その日、ちょうど正午だったので、灼熱の太陽に照らされ、あたり一面まぶしかった。

 山の昼は、死んだように静まり返っている。母が桶を水でいっぱいにした時、外側に掛けておいた銅のヒシャクが突如、転がり落ちた。水汲み場の周りは、傾斜70度もあろうかという険しい岩の崖である。ヒシャクは岩に当たりながら崖を落ちて行き、耳をつんざく凄まじい音を響かせた。それは、何代前から使われたのかも分からぬヒシャクだ。母は、呆然と立ち尽くし、泣きながら、絶望の面持ちで瞬く間に転げ落ちて行くヒシャクを見ていた。近くで畑仕事をしていた上の兄は、母の身に何か起こったと思い、泣きながら駆けて来た。「礼儀(上の兄の幼名)、どうしよう。母さんヒシャクを落としちまった」。母は泣きべそをかきながら、兄に向かって言った。兄は、その母の胸に飛び込み一緒に大泣きした。泣き終わった後、母は「崖を下りてあのヒシャクを探す」と言い出した。兄は自分が行くと言い張ったが、母は頑として許さなかった。母は1時間余りかけて、あのヒシャクを探し出した。先ほど落ちて行った摩擦で、キラキラ光るようになったヒシャクを。

 1本の銅のヒシャク。当時の値段で2元にも満たないものだ。こんな体験を今の人が聞いたら、「何と大げさな」と思うだろう。しかしあの時、我が家のような家庭で、しかも母の一生の最も特別な時期にあって、あの古ビシャク1本のため、我々母子は数時間もハラハラさせられたのだった。

 20年余りたった今も、あのヒシャクが落ちた際の耳をつんざく音、そして母の絶望した嘆き声が、私の耳から離れることはない。

 (続く)

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