『進化論』~実証されることのない仮説(上)

「我々はどこから来たのか、そしてどこへ行くのか」

 古より議論を重ねてきたこの命題への関心は、今も衰えることはない。最近では、2012年に人類は終焉を迎えるというマヤ暦の予言が話題となり、人類はこの宇宙に存在する唯一の高等生物なのか、人類は神の子なのか、霊長類が進化したものなのか、そして無神論か有神論かという科学の根底をなすものに対する議論が再び高まった。

 無神論に理論的な根拠を与えたのは、150年前にダーウィンが提唱した「進化論」である。進化論の発表は、19世紀初頭のまだ宗教色の強いヨーロッパ社会にとって、その根底を揺るがす出来事であった。進化論は「自然淘汰・適者生存」という理論により、生物学や医学のみならず、社会学、心理学、宗教学、歴史学など人類のあらゆる領域に多大な影響を与え、現代科学の礎とされた。

 一方、ダーウィンの進化論と共に、現代科学を支える大きな柱となった「相対性理論」を発見したアインシュタインと、「万有引力」を発見したニュートンが、いずれも晩年、宗教の門を叩いたことはよく知られる話である。なぜ、現代科学の頂点を極めた二人が、宗教の必要性を感じたのであろうか。

ダーウィンと進化論

ダーウィンは、エディンバラ大学で医学、ケンブリッジ大学で神学を学んだ後、1831年~1836年、ビーグル号の航海に参加。航海中に集めた野生動物と化石の地理的分布の解析に没頭し、種の変化を研究しはじめた。1838年、彼はマルサスの『人口論』からあるヒントを得た。マルサスは著書で、「生物の生存のために、好ましい変異は保存され、好ましからぬものは、破壊される傾向がある」と述べた。ダーウィンはこの一文に着目、新しい種の形成を説明するためのアイディアを手に入れたと感じた。すなわち「自然選択」という仮説の誕生の瞬間であった。

 この理論を立証するためには、より多くの時間を費やすべきだと考え、理論を洗練させるための研究を行い、10年以上もの時間を経て、1859年に『種の起源』を発表し、すべての生物は、少数の共通の祖先から始まり、自然選択という長い時期を経て進化を遂げた、と主張した。

 しかし、自然選択はあくまでも一種の仮説であった。生物の進化に関するすべての現象を説明することができなければ、仮説にすぎず、実説とするには何らかの確証が必要である。多くの学者が、進化論を支持するための論拠を求めてきたものの、かえってこの仮説が誤りであることが発見されている。

 一つは「カンブリア大爆発」である。5億4300万年前から4億9000万年前の地球で、生命の進化史上、最大の謎とされる出来事があった。それまで軟体性の動物しかいなかった地球に、サンゴや貝のような硬い組織を持った動物が現れた。この現象は、カンブリア紀という時代に起きたことから「カンブリア大爆発」と呼ばれ、研究者の注目を集めてきた。

 ダーウィンは、進化は漸進的に順を追ってゆっくり進むと考えていた。もし、そうであるならば、カンブリア紀に生きていた動物と似たような動物の化石が、カンブリア紀より古い地層からも発見されるはずである。しかし、その様な化石はいまだに見つかってはいない。カンブリア紀に、三葉虫、貝やサンゴなど、硬い組織を持った動物が突然現れたのである。この事実は、漸進的な進化というダーウィンの仮説を否定するものである。

 英国の生物学者ウイリアム・ベートソンは、「もはや科学者は『種の起源』に書かれたダーウィンの説に賛成することはできない。彼の説を実証する証拠は、全く発見されていない」と述べた。米国の進化論支持者であったモーガンは、半世紀以上もダーウィンの自然淘汰説を証明することに努めてきたが、「今日においては、この説は学識ある研究者にはほとんど支持されない」と述べている。

進化論の危害

進化論は、ナチズムの台頭により、人類に危害を及ぼす理論となった。彼らは、「優良人種が劣等人種を駆逐するのは当然」という愚考により、ユダヤ人への虐待を正当化した。

 また、共産主義もこの理論を利用した。マルクスは、ダーウィンの進化論が自分の唯物史観の着想に寄与したとして、著書『資本論』の第一巻をダーウィンに贈呈したほどであった。マルクスの思想は、「資本主義は社会進化論を根拠にしているが、その資本主義自体もやがては淘汰される」というものであった。中国で共産主義を勃興させた毛沢東は、「中国の社会主義は、ダーウィンおよび進化論に基づいている」と公言し、その思想の下で、一連の政治運動を引き起こした。

つづく 『進化論』~実証されることのない仮説(下)

(翻訳編集・豊山/高遠)
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