【大紀元日本3月14日】小学校5年になる手前で、娘は小さな田舎の私立校に転校した。4年前に破産し、地元の有力者の出資で新たな学校として出直し、新しい校長先生も赴任。片側が海辺の地域なので、広範囲から生徒を集められないということで、海外 (特に香港)からの生徒の受け入れに積極的だった。
また、私立校としての特色を出すために、フランス語のバイリンガルコースを幼少時代から始めるという謳い文句を掲げていた。ちょうど娘が5年生になるときに、お母さんがフランス人という元卒業生が、バイリンガルコースの先生として採用された。彼女の授業では、英語を使わないという話だった。でも、直接先生に尋ねたら、指人形を使って自分のフランス語を通訳させるとのこと。なるほど、そうやって子どもたちの関心をひきつけていくのか。
5年生の時は、お遊び程度のフランス語の授業だったのだが、6年生から話が深刻になり、中学卒業試験のGCSEを意識して、フランス語の試験を1年早く受けるバイリンガルコースが設定された。フランス語だけの授業が通常よりも多くなる。選択制であり、全ての生徒に強要しているわけではない。授業料も割増になる。
思う通りに生徒が集まらなかったようで、校長先生から直々に手紙をいただいた。「あなたのお子さんはとても優秀でバイリンガルコースに相応しいため、授業料の割増をとらずにこのコースを提供いたします」という親心をくすぐる内容。特にバイリンガルという言葉に私は弱い…
手紙を見せて、娘にコースを進めたけれど、「絶対いや」とのこと。そして夫も、きちんとした教育の基盤が大切で、言葉が表面的に話せてもしょうがない、という方針。私一人、納得がいかない。せっかくタダでフランス語ぺらぺらにしてくれるのなら、若いうちにこの特殊コースを取るべきだと、どうしても諦めがつかなかった。
頑固な家族を前にして、家族の外から回答を求めるべきだと思い、二人の人に電話をかけた。1人はオランダ語とのバイリンガルで娘を育て、 娘さんは多言語ぺらぺらになり、日本で高い職についているという、私が目指すバイリンガル子育てを実践した方。相談したが、「本人がやりたくない、といっているのなら、無理ね」と一言で締めくくられてしまった。
もう1人は、主人のかつての日本語の先生で、その後イギリスの大学院で教授法を学び、今は大学で日本語を教えているという方。彼女は、このコースに大変関心をもってくれた。バイリンガルを育てるにはimmersion(つけ込む)という発想があり、学校の授業でフランス語だけを使うのはpartial immersion(部分的なつけ込み)と言われ、かなりの効果をみせている、とのこと。でもやはり、「本人が嫌がっているなら駄目でしょうね」という結論だった。
さらに、こういうコースをとると簡単にフランス語のGCSEはA+で受かってしまうから、長い目で見るとよくないという興味深い話をしてくれた。こんなもんか、と変に自信がついてしまい、高校レベルで努力をしないため、高いレベルでは結局悪い点になってしまう傾向があるそうだ。「コツコツと地道に勉強した人が、高校や大学レベルでは着実にのびていくのよ」という教育者ならではのアドバイスをいただいた。
この言葉に納得し、私にとっては古めかしいカリキュラムに沿ったコースに、娘が留まることを受け入れた。バイリンガルコースを履修した生徒は、確かにフランス語がうまくなり、全員GCSEはA+で合格した。しかし、文法は弱いようだ。娘は感覚的に日本語を学んだため、裏付けが弱いような気がしていたので、苦労してフランス語やドイツ語の文法を学べたことは大きなプラスになったと思う。専門家のアドバイスを聞き入れてよかった。
(続く)
著者プロフィール
1983年より在英。1986年に英国コーンウォール州に移り住む。1989年に一子をもうけ、日本人社会がほとんど存在しない地域で日英バイリンガルとして育てることを試みる。
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