名にし負はば いざ言問はん都鳥

【大紀元日本5月12日】なんでも東京の新名所の最寄駅が「とうきょうスカイツリー駅」という、新しい駅名になったそうです。正直なところ、駅名は変えないでほしかったなあ。歴史は古いほど値打ちが出るもの。新しければいいってわけでもありません。

この駅の旧名は、業平橋(なりひらばし)と言います。平安初期の歌人で、六歌仙の1人でもある在原業平(ありわらのなりひら、825~880)にちなんだ駅名ですので、なかなか捨てがたいではありませんか。

「ちはやぶる神代もきかず龍田川からくれなゐに水くくるとは」

小倉百人一首のなかのこの歌も業平の作ですが、それよりもよく知られているのは平安初期の歌物語である『伊勢物語』第九段「東下り」の一場面。もっとも、この『伊勢物語』の作者は誰かよく分からないのですが、在原業平らしい人物が登場するので、作者も業平ではないかと言われています。

さてさて、その業平らしき主人公。なぜか自分をこの世に必要のないものと思い、「京にはあらじ。あづまの方にすむべき国もとめに(京都には居るまい。東国へ、住むにふさわしい国を探しに行こう)」ということで、男たち何人かと連れ立ち、それぞれ妻や恋人を置いたまま都を離れたらしいのです。

東下りの旅は進み、三河を過ぎ、駿河を通って、ついに関東地方へ到着。すると武蔵と下総の境に、川が流れておりました。

「いとおほきなる河あり。それをすみだ河といふ」

あ、なるほど、これが隅田川ですか。今とは川筋がだいぶ異なっていると思いますが、古典のなかに現代の地名が出てくるのは、結構うれしいものです。だから名称は、あまり変えちゃいけません。まさか川の名前まで「スカイツリー川」にはしないとは思いますが。

船に乗って隅田川を渡る一行。川を渡ることには、ある象徴的な意味が込められています。つまり、その一線を越え渡ることで、「また都から遠く離れてしまう」という感情の高まりがあるのです。

そんな時、ふと目に映ったのは、赤い足とくちばしをもつ、白い鳥。川面を飛んで、魚を食べています。京都では見かけない鳥なので、船頭の親父さんにきいてみると、「あれは都鳥でごぜえますだ」という。

さあ大変。思いもかけず「みやこ」の呼び名を耳にした男たちの感情が歌となり、一気に噴き出ます。

「名にし負はば、いざ言問はん都鳥、わが思ふ人は、ありやなしやと」

歌意は、「都の名を負うている鳥ならば、おまえに聞いてみよう。京都に残してきた私の思い人は、今でも息災でいるかどうかと」という感じですね。

ちなみに「ありやなしや」とは、ただ健康状態はどうかと聞いたのではなく、もっと切実な「生きているか、死んでしまったか」というぐらいのニュアンスでしょう。なにしろ昔のこと。人の命ははかなく、短いのです。だからその後の本文に「舟こぞりて泣きにけり」とあるように、船上の男たちは皆大泣きしたわけです。

この歌にちなんだ今日の言問橋(ことといばし)という橋も、なかなかいい名前でしょう。それから、ここに出てくる白い鳥はユリカモメのことで、東京都民の鳥とされています。今では、京都の鴨川を含めて全国的に生息していますが、昔は本当に「京都では見かけない鳥」だったらしいです。

さあ5月22日、いよいよ東京スカイツリー開業。

でも、古いもの好きの私としては、やっぱり業平橋という駅名でこれからも呼びますよ。

(鳥飼)
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