【大紀元日本8月6日】
2、子蘇
子蘇(しそ)はここで、紅い杖のおばあさんに育てられた。
自らの出生については、子蘇ははっきりとせず、自分の父母が誰なのかも知らなかったが、おばあさんだけが知っていた。おばあさんによると、ある月明かりのはっきりとした夜、とてもきれいな鳴き声が突然山中に響いてきた。おばあさんが小さいころ、母親は「霊雀」のことについて話したことがあるが、それは母親が述べた霊雀の鳴き声によく似ていたという。不思議に思ったおばあさんは、ベッドから起き、声の元を探しに山中へ出た。
おばあさんの話によると、この霊雀は神鳥で、世の中で極めて珍しい物だという。霊雀は元真山から飛んでくるが、人にはほとんど見られず、もし誰かがそれを見かけると、その人には福が到来するという。おばあさんは、この赤石山にはそれまで霊雀が現れたと聞いたことはないが、突如として霊雀に似た声を聴いたため、思いきってそれを探しに出たのだと言った。
おばあさんは杖をつきながら、鳴き声の元を探し始めた。その夜は、手元に明かりがなくても月の光が明るく、山道を照らしてくれた。約30分後、谷川の近辺についたところで、突然、赤ん坊の泣き声が聞えてきた。おばあさんはビックリして、夜に幽霊に遭っているのではないか思い込み、慌ててその場を離れようとした。
その時、小さいころに聞かされた母親の言葉が浮かんできた。「悪いことをしない限り、邪霊は憑いてこないよ」。おばあさんは自ら思い直し、平生から悪いことはしていないし、悪にも染まっていなかったと思い、腹を決めて声のする方へと進んだ。すると、谷川の側の崖の上の大きな木に、白い布に包まれているものが掛けられていて、月を背景に白い光を発しているのが目に入った。その様子はまるで蝋燭が光っているようで、中で何かが動いていた。鳴き声はそこから聞こえてきていた。
近づいて行くと、一人の赤ん坊が中で泣いているのが見えた。おばあさんは木に登ることができなかったため、急いで村に戻って村民たちを呼び、彼らを連れて赤ん坊を木の上からおろした。
赤ん坊は男の子だった。肌は真っ白で、体が光っていた。彼はとても健康そうに見えたが、小さな手を伸ばしながら、泣き止まなかった。お腹が空いているように思われた。しかし村民たちは、深夜に山中で現れ、しかも全身が光っているこの赤ん坊を恐れていた。人類なのか疑問に思い、誰も彼を預かろうとしなかった。おばあさんだけが、ずっと独りぼっちで、子供が欲しかったので、天からの贈り物だと思い、彼を預かることにした。
この赤ん坊が子蘇だったという。おばあさんは、「紫蘇」と呼ばれる一種の薬草を好んでいたので、彼の名前を「紫蘇」にしたものの、あまりにも女の子のようだったので、「子蘇」に変えたという。
おばあさんによると、子蘇が現れたその夜、きれいな鳴き声をしたのは、確かに霊雀であったという。その夜以後、山中で霊雀を目撃したという村民たちが次々と現れ、おばあさんも二度目撃したという。霊雀は巨大で、羽を伸ばすと人より大きく、全身が白色で、尾の先は赤く、飛行すると一筋の白光となって見えなくなり、地上に降りた時だけ見えるのだという。
おばあさんの話を聞くうちに、子蘇は幼いころのことを思い出し、自分も山中で霊雀を見かけたことがあるような気がした。それは子蘇がまだ5歳の時だった。ある日、おばあさんを探しに一人で山中に行った子蘇は、途中で突然空が暗くなり始めていることに気がついた。頭を上げて上を見ると、一羽の巨大な白い鳥が自分の頭の上を旋回しており、頭を下げて自分をじっと見ているのが目に入った。鳥は光るほど白い羽毛を持っており、その羽毛は雪よりも白くて柔らかく、淡くて微かな瑩光を発散していた。当時、子蘇はそれが恐いと思わずに、ぽかんとしたまま、それと見つめた。このようにしばらく経つと、白鳥は突然一回鳴き終わると、一つの白光となってその場から消えていった。子蘇はまるで夢を見ているようで、今になってもそれが夢の中なのか、それとも現実の中なのか、はっきりとしなかった。
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