【大紀元日本7月30日】
二、人間界
この物語の前半の部分は、人類世界で起きたものである。そのため、また人類にも関わらなければならないが、ここでいう「人類」は、今の人類ではなく、一劫(※)前の人類を指している。一劫は、人類にとって恐ろしいほど古くて、長い数字である。当時の人類世界は、今の人類世界より前の人類世界で、それが天災により壊滅された後、今の人類世界が始まったのである。いうまでもなく、当時の自然環境や、社会の人文の形式も現在と異なるため、今の社会と見比べて言う必要はない。
1、紅い杖のおばあさん
当時の人類は、社会が大きく乱れ、天象が異変に変わり、天下は不安定であった。国家にも首領がなく、各勢力が戦い、王として自立し、土匪や悪者が横行していた。強者が弱者を征服し、戦争が絶えず、民衆は安らかな日々を送ることができなかった。
当時、中国は世界の南に位置していた。山が多く、水が豊富で、海に囲まれていて、いくつかの州に分かれていた。名前も中国ではなく、「南州澤国」と呼ばれていた。ここでは「澤国」と略称する。
澤国の西南には、高いとは言えないが、「紅石」が多いため「紅石山」と呼ばれる山があった。山の中には、「風よけの谷」と呼ばれる谷間があり、そこに「風よけ村」という小さな村があった。
この物語の初めは、ここ「風よけ村」で起きている。村は中心と遠く離れた辺鄙なところで、住民たちは時代に遅れた原始的な生活を送っていた。
山中は水稲の栽培に適していなかったため、村の人々は猟をして生計を立てていた。彼らは普段、二、三人の家族単位での猟をしており、それは「私猟」と呼ばれていた。また、ある一定の時間毎に、あるいは、ある特殊な事情があった場合には、村の若者全員が出動して、山に入って猟をするが、それは「大猟」と呼ばれていた。「大猟」を終えるには、山との距離にもよるが、一般的に時間が長く、大体二、三日かかる。「大猟」から帰ってくると、全ての獲物は一箇所に集められ、分類毎に分別され、特殊な貢献などがある人に優先的に分配される。その後、残りは他の人たちが等分する。獲物は主に家族の食糧として使われたが、余剰がある場合は、集まったものを皆で一緒に山外の市場へ持ち出し、お金や生活用品などと交換していた。
村の女性たちは、外で働かずに、村の中で網を編んだり、矢を作ったり、刀を研いだり、整理や保存の作業をしたり、獲物を飼育したり、または、山に登ってものを採取したり、魚を取ったり、子供を育てたりしていた。割り当てられた作業はそれぞれ違うが、皆労力で食を得ていた。
村の西方の山麓には、一つの盆地があった。そこに石と木とでできた家屋があり、おばあさんが独りぼっちで寂しく住んでいた。村には彼女の名前を知っている人は誰もいなかったが、背中が多少曲がっていることや、一日中赤い杖をついていることから、「赤い杖のおばあさん」と呼ばれていた。
おばあさんは、医術を少し知っていた。彼女は、薬草の使用法や、虫に噛まれた場合や、刀傷の場合の治療法などを知っているため、村民たちは日常の雑病は山を出ずに、おばあさんに治してもらったりしていた。しかし、おばあさんは小さな病気の治療しかできないため、大きな病気は山を出て他の医者に看てもらうしかなかった。おばあさんは、小屋の後ろの山から採集してきた各種の薬草や、珍しい花などを植えていたが、時間が経つにつれて、大きく美しい花園に変わった。特に春が来ると、様々な花がたくさん咲き、まるで仙境のようだった。もし、誰かが山中でこの花園に会えたら、他の世界に着いたのではないかと勘違いするくらいだった。
村の婦人たちは誰もがこの花園が好きで、暇な時は良く花を見にきた。特に阿蓮(あれん)がそうだった。阿蓮は村長の娘で、とても美しく、家族みんなの寵愛を受けていた。村の男子には、字を読める人が珍しかったが、家族は阿蓮に識字の教育を施し、力仕事はさせようとしなかった。家族の願いは、将来彼女を山外の富豪の人に嫁がせて、苦労せずに生活し、一族のために栄光を勝ち取ることであったのだ。村の女の子たちは皆そんな彼女を羨ましがっていた。しかし、彼女は他の人からそんな話を聞くのが嫌で、花を見ることだけを好み、おばあさんの花園によく来た。
おばあさんはとても善良で、人に優しく、誠意のある年輩の人であった。村の人々は皆そんな彼女を好んでおり、家に余剰の食糧などがあると彼女によく与えた。おばあさんもお金を取らずに村の人々を看病してくれた。彼女は年をとっているため、力仕事はできず、家の前に野菜を植えたり、村の人たちの雑役を手伝ったりして、平時には彼らの物的援助と山中で自ら採ってきたもの、自分で植えた野菜で生活を送っていた。
※一劫:数億年
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