毎年一月の成人の日には、各地で新成人を祝う式典が行われる。現在の日本では、一定の年齢に達することで法律上の成人となるが、古くは「成人」とは年齢の区切りではなく、人格と責任の成熟を公に認めるための儀式であった。
古代中国の「冠礼」
その原型は、古代中国の「冠礼」にある。
男子は二十歳で冠礼、女子は十五歳で笄礼を受け、はじめて社会的に大人として認められた。とりわけ冠礼は、周代において本来、貴族階層のための政治的儀礼であり、単なる家庭内の通過儀礼ではなかった。成人とは、将来、家と国家を担う責任を引き受ける資格を得ることを意味していたのである。
漢代の経学者・鄭玄は『礼記・冠義』の注釈で、こう記している。
「孝弟忠順之行立、而後可以為人、可以為人、而後可以治人也」
孝・悌・忠・順の徳が身に立って、はじめて人として認められ、人として立ってこそ、他者を治めることができる。
ここで言う「治人」とは、私的な成熟ではなく、家や国家を治める側に入る資格を指していた。
冠礼の中心儀式は「三加礼」と呼ばれ、三度にわたって冠を授けることで、成人としての身分を完成させる構造を持っていた。
第一段階が「始加冠」である。
「令月吉日、始加元服。棄爾幼志、順爾成德。壽考惟祺、介爾景福」
――礼制にかなう吉き日を選び、ここに正式に成人の加冠の礼を行う。この日をもって、幼き心を離れ、成人にふさわしい徳に従って生きよ。願わくは長寿と安寧を得て、深く光明に満ちた福沢を受けるように。
第二段階が「再加冠」。
「吉月令辰、乃申爾服。敬爾威儀、淑慎爾德。眉壽萬年、永受胡福」
――吉き月、吉き時に、あらためてその成人の身分を確認する。願わくは行いを慎み、姿勢を正し、徳を温厚かつ謹厳に保ち続けよ。願わくは高寿を保ち、長く深い福を受け続けるように。
第三段階が「三加冠」。
「以歲之正、以月之令、咸加爾服。兄弟具在、以成厥德。黃耇無疆、受天之慶」
――年の正しき時序、当令の月において、ここに成人の礼を完成させる。兄弟・親族が皆そろい、そなたの徳の成就をともに証しする。願わくは寿年尽きることなく、天より授かる慶びを受けるように。
これら三段の祝詞が示しているのは、単なる長寿や幸福の祈願ではない。まず「幼きを棄てて成人へ移る」身分の転換が宣告され、ついで「威儀を正し、徳を慎み続けよ」と徳行の義務が課され、そのうえで最後に、福寿と天の慶びが与えられる。
すなわち冠礼は、福を願う儀式ではなく、徳を立てることを第一とし、徳を備えてはじめて成人として家族と社会に組み込まれるという、明確な階層構造を持った儀礼であった。
日本の「元服」
この冠礼が奈良時代に日本へ伝わり、「元服(げんぷく)」として定着した。元服は貴族や武士階級で行われ、髪型を大人の形に結い、烏帽子を被る儀式であった。年齢は一定ではなく、十二、三歳で行う者もいれば、十六歳で迎える者もいた。
戦国時代には、元服を終えたばかりの若者が軍を率いて初陣に臨むこともあった。これは若年だから戦場に送られたのではなく、元服によって一人前の武将と認められたためである。元服は、家の子から、役割を担う社会の一員へと移行する通過儀礼であった。
現代の成人式へ
現在の成人式は、1948年に制定された「成人の日」に由来する。年齢による区切りが明確になった一方で、古代の冠礼や元服が重視した精神的成長という側面は、形を変えながらも受け継がれているといえるだろう。
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