3月3日のひな祭り(上巳の節句)は、女の子の健やかな成長を願う伝統行事です。雛人形を飾り、ちらし寿司やハマグリのお吸い物を食べながら祝う風習は広く親しまれています。しかし、この行事の起源をたどると、古代中国の風習や陰陽五行説と深く関わっていることが分かります。
ひな祭りの起源と陰陽五行説
古代中国から伝わった「上巳の節句」と五行の関係
ひな祭りの元となる上巳の節句(じょうしのせっく)は、中国の「陰陽五行説」に基づく季節の節目の行事でした。五行説では、「季節の変わり目には邪気(陰の気)が増す」とされ、厄を払う儀式が行われていました。

春(木)の始まりである3月3日は、冬(水)から春(木)へ移る時期であり、邪気が発生しやすい「季節の境目」でした。このため、古代中国では水辺で身を清める禊(みそぎ)を行い、邪気を払いました。
五行の「相生(そうしょう)」とひな祭り
五行の考え方には「相生(そうしょう)」と呼ばれる関係があり、それぞれの要素が次の要素を生み出し、成長を助けるとされています。
- 木生火(木は火を生む)
- 火生土(火は土を作る)
- 土生金(土は金を生む)
- 金生水(金は水を生む)
- 水生木(水は木を育てる)
ひな祭りは、「木(春の成長)」が「火(生命力)」を生み出す相生の関係を持つ行事と考えられます。「桃の節句」と呼ばれるのも、桃の花(木)が生命力(火)をもたらすとされるためです。桃の花には魔除けの力があるとされ、ひな祭りに飾られる理由もここにあります。
「流し雛」と五行の関係
日本では、平安時代から「流し雛」と呼ばれる儀式が行われていました。紙や草で作った人形(ひとがた)を川や海に流し、厄を払う風習で、これは水(五行の「水」)による浄化の考えに基づいています。
この「流し雛」が後に、豪華な雛人形を飾る現在のひな祭りの原型となりました。

雛人形と陰陽五行
雛人形の意味
雛人形は「形代(かたしろ)」と呼ばれ、女の子の厄を人形に移し、身を守る役割を持っています。この考え方も、五行の「水」の持つ浄化の力に基づいています。
雛人形の並べ方と五行の関係
雛人形の並び方には、関東風(右に男雛)と京都風(左に男雛)の二通りがあります。これは、五行説における「陰陽」の考え方と関連しています。
- 関東風(右に男雛、左に女雛) 古来の陰陽道では「左が陽、右が陰」とされ、陽(男雛)を左に配置。
- 京都風(左に男雛、右に女雛) 現在の陛下の並び方に基づき、男雛を向かって左に配置。
五行説では、「陰と陽の調和」が重要とされるため、どちらの配置でも正しく、意味を持っています。
ひな祭りの食べ物と五行の関係
ひな祭りでは、ちらし寿司、ハマグリのお吸い物、ひし餅、ひなあられなどの特別な料理が用意されます。これらの食べ物には、五行のバランスが取り入れられ、女の子の健やかな成長を願う意味が込められています。
・ちらし寿司
色とりどりの具材が五行の要素を表し、調和を象徴します。
- 木(成長) レンコン、シソ、キヌサヤ
- 火(活力・魔除け) 卵、エビ、ニンジン
- 土(安定) 酢飯、ゴボウ、シイタケ
- 金(豊かさ) 白身魚、ゴマ
- 水(循環) イクラ、キュウリ
五行の「木生火」にもつながり、春の芽吹き(木)から生命力(火)へとエネルギーが循環する流れを食事の中にも取り入れています。
・ハマグリの吸い物
ハマグリは対になった貝殻しか合わないことから、夫婦円満や良縁を象徴。

・ひし餅
ひし餅の3色は、それぞれ五行に対応し、健康や魔除けの意味を持ちます。
- 緑(木) 健康・大地のエネルギー
- 白(金) 純潔・高貴
- 桃(火) 魔除け・生命力
ここでも、「木(成長)が火(生命力)を生む」という五行の相生関係が表れています。
・ひなあられ
地域によって異なりますが、一般的には四色(赤・緑・黄・白)で、五行のバランスを表します。
- 緑(木) 健康・成長
- 赤(火) 魔除け・活力
- 黄(土) 安定・豊かさ
- 白(金) 純潔・清浄
これらの食べ物には、「自然のエネルギーを取り入れ、冬から春への移り変わりを祝う」という五行の考えが反映されています。

現代のひな祭りと五行の活かし方
現代の変化
- 昔は「ひな祭り」とは、貴族や裕福な家庭のみの行事でしたが、明治時代以降、庶民にも広がりました。
- 近年は「スペースの問題」などで雛人形を飾らない家庭も増えています。
- 伝統の継承が難しくなってきています。
五行を活かしたひな祭りの楽しみ方
現代では「ひな祭り=女の子のためのお祝い」というイメージが強いですが、五行の視点から考えると、「春の始まりに邪気を払う行事」として、家族全員が楽しむこともできます。
例えば
- 水のエネルギー(浄化)を意識し、前日にお風呂に入る際に日本酒や塩を入れる。
- 火のエネルギー(魔除け)として、桃の花を飾る。
- 木のエネルギー(成長)を感じるために、新しい植物を育てる。
ひな祭りの伝統を受け継ぎ、春の幸せを願おう
ひな祭り(上巳の節句)は、古代中国の「上巳の節句」と、日本の「流し雛」「ひいな遊び」が融合した行事です。もともとは「邪気を払う厄除けの行事」でしたが、時代とともに「女の子の健やかな成長を願う行事」として定着しました。
五行説の視点で見ても、ひな祭りは春(木)の訪れを迎えるための行事であり、「木生火(成長が生命力を生む)」の相生の関係が含まれたものと考えられます。浄化(火・水)と調和(木・土・金)の要素がバランスよく組み込まれており、自然の流れに沿った伝統行事です。
今年のひな祭りは、五行の視点を取り入れながら、春の訪れを祝ってみてはいかがでしょうか?
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