かつお節の香りに宿る不思議な力から
日本の日常の食卓では、湯気の立つ味噌汁がふわりと香り、冷奴の上には羽のように軽やかなかつお節が舞い、その濃厚な香りが食卓に広がります。この香りには、まるで不思議な力があるかのようで、嗅いだ瞬間に心身がすっと軽くなり、食欲が湧いてきます。一口味わえば、その味は生涯忘れられないほど。まさに日本料理の魂とも言える存在です。この力、一見ごく自然なものに見えますが、実は知られざる秘密が隠されています。
軽やかに舞うこのかつお節には、何千年も受け継がれてきた「五行養生」の知恵が詰まっているのです。肝の気を整え、脾胃を温め養う働きがあり、自然と香りを感じるだけで肝の気がすっと和らぎ、脾胃が整い、心も身体も安らぎます。
つまり、春の日に漂う何気ないかつお節の香りが、食を通じて五臓を自然に調和させ、疲れや不安をそっと癒してくれるのです。
かつお節とは、一体どんなもの?
「かつお節」は、その製法が非常に複雑です。まずカツオを加熱して骨を取り除き、何度も燻し乾燥させたうえで発酵させます。最終的には木のように硬くなった「鰹節(かつおぶし)」ができあがり、これを薄く削ったものが、私たちのよく知る「かつお節」なのです。かつお節には、アミノ酸や旨味成分(例えばイノシン酸)が豊富に含まれており、日本料理において旨味を引き出すための宝とも言えます。これは、先人たちが残した食と健康の知恵でもあるのです。

かつお節:海の木霊―木のような紋理で、肝に通ず
かつお節、実はその名前には健康を支える秘密が隠されており、その効能と深く関係しています。
中医学では「木」は人体の「肝」と対応しており、肝は「将軍の官」と呼ばれるほど、苦しみに耐え、強い意志を持つ臓器です。だからこそ、肝を養うには気を巡らせ、滞りをなくすことが大切です。魚の中でもこの性質を備えているのが「かつお」。だからこそ、「魚の堅さ(堅)」と組み合わされた「鰹(かつお)」という名前が付けられたのです。そして「木魚」という中国語名は、五行における「木」の性質をより直接的に表しています。
実際にその乾燥したかつお節の表面を見ると、まるで木の年輪のような紋理があり、削るとくるくると巻いて、まるで大工が削った木のカンナ屑のよう。まさに自然が生み出した木の姿そのものです。

この「木のかたち」は、水中に生きる魚が「木の性質」を宿した証であり、「木の精」が魚の姿を借りて表れたような、自然の神秘的な進化と言えるでしょう。つまり、「木のエネルギー」が海の中で魚の姿を取り、乾燥することで再び「木の本質」を現す――まさに「海の木霊(こだま)」と呼ぶにふさわしい存在です。この魚に秘められた「木の力」こそが、肝の経絡に入り、肝の気を巡らせ、心身を整える秘密なのです。
かつお節は、生まれながらにして五行の「木」と深い関わりがあります。肝は「木」に属し、日本はちょうど木の気が盛んな東方に位置する国。木の気が強ければ、肝の気もまた動きやすくなります。
そんな日本人の体質にぴったり合うのが、肝を整え、胃を守り、気を巡らせ、五臓を調和する、天然の妙薬=かつお節なのです。

さらに興味深いのは、かつお節が発酵を経ることで、「木の気」が「土の力」へと変化し、脾胃を整え、身体の中心を元気にする「土性」の力も備えるようになることです。つまり、かつお節は「木の気を高める力」と「土の安定感」の両方を併せ持ち、中医学が重視する「木土(肝脾)の協調」を体現しているのです。一方が高まり、一方が支えることで、肝を養い胃を守り、気の流れを通し、心身を安らかにしてくれるのです。
このような背景から、春に木の気が盛んになり、肝の気が上がりやすい日本では、古くからかつお節が親しまれてきました。それは、まるで春の揺らぐ心と身体を優しく包み込む、自然からの「調和の贈り物」なのです。
さらに、燻製によって加わる温かな火の力が、陽気を高め、冷えや湿気を追い払ってくれます。
ただし、火の気が強すぎると、肺を乾かしやすくなるため、それを和らげるために日本の先人たちは、五行で「水」に属し、腎に入り火を鎮め、肝の血を養う昆布や海藻をかつお節と一緒に煮出して出汁を作りました。
これは「水が木を生む」という五行の理にぴったり当てはまり、水(昆布)と木(かつお節)が互いに支え合いながら、腎を補い肝を養い、肝火を穏やかに鎮め、肝の気を巡らせる――つまり、肝・脾・肺のバランスを整えるのです。こうしてできた一杯の出汁は、香り高くも優しく、身体に染みわたるような穏やかさを持つのです。
かつお節の多重効果

- 肝を整え気を巡らせる:かつお節は肝に入り、肝の気の巡りが滞っている人に適しています。例えば、イライラやめまい、胸や脇の張るような痛みがある人に向いており、気の流れが悪くなることで起きる抑うつや不眠の改善にも役立ちます。
- 脾を健やかにし、胃を整える:その独特の旨味は食欲を刺激し、胃腸の働きを助けます。特に、脾が弱く食が進まない人や、食後にお腹が張るような症状がある人におすすめです。疲れやすく、気血が不足しがちな人にも効果的です。
- 陰を養い、腎を補う:火で加工されているにもかかわらず、かつお節は乾燥しすぎることなく、適度な「陰の性質」を保っています。そのため、陰が不足しがちな体質の人にも適しており、陰陽のバランスを整えるのに役立ちます。昆布と組み合わせることで、より効果が高まります。
- 五臓の気の流れを調整する:肝の気がやわらかく、スムーズに流れることで、肝は血を蔵し、全身の気血の巡りが整います。これによって、五臓に宿る五行のエネルギーがバランスよく巡り、陰陽の調和が実現されます。つまり、かつお節は五臓の調整や、気血のバランス改善にも幅広く貢献するのです。
特に春は「木の気」が盛んになる季節であり、かつお節は「木で木を調える」ように、肝の気を穏やかに上昇させ、気分を明るく保つ働きがあります。
また、その中に宿る「土」と「火」のエネルギーが脾胃を支え、木の気が強くなりすぎて起こる脾の虚弱や気の滞りなどを和らげてくれます。現代に多い抑うつ気分、脾胃の虚弱、気の滞りや血の滞り、不眠、めまい、花粉症、風熱感冒、さらにはさまざまな生活習慣病などに対しても、かつお節は良いサポートとなる自然の調整役です。
生のかつお節と乾燥かつお節の効能の違い
生のかつお節は、性質が穏やかでやや温性、味は甘みと塩気を持ち、脾・胃・肝・腎の経絡に働きかけます。気を補い、血を養い、精を養って脳を健やかにし、脾を助けて食欲を促進する効果があります。体力が落ちて疲れやすい人、頭を使うことが多い人、肝腎が弱っている人、食欲がない人に向いており、「滋養」に重点を置いた働きが特徴です。
一方、発酵・燻製・乾燥されたかつお節は、「調整」と「運化(めぐりを整える)」に優れ、特に脾胃を温めて元気にし、気を巡らせて食べ物の消化を助ける作用が強まります。こちらは、脾胃のケアや気の調整に特化した効能を持ちます。
この2つを組み合わせることで、体の内と外のバランスが整い、滋養と気の巡りの両方を調和させることができ、木の気が強い東方の地域――つまり日本における養生にぴったりの組み合わせとなるのです。
結びに――かつお節の秘法、それは誰の知恵か
かつお節の五行的な性質を深く探っていくと、そこには「水・木・土・火」の四つのエネルギーが含まれており、「金」だけが不足していることに気づきます。すると、日本の台所に常備されている白い食材――山芋、里芋、豆腐、大根、白菜など――がその「金」の不足を見事に補っていることがわかります。白は五行で「金」に属し、まさに自然のバランスを取る役目を果たしているのです。

また、日本人が豆類を好むのも理にかなっています。豆は形が腎臓に似ており、自然と腎を補う働きがあります。発酵された納豆は、腎の気とより深く通じ、さらに強い補腎効果を発揮します。黒豆は色が黒く、水に属するため、これもまた腎に入り、腎を補います。こうして腎の「水の気」が十分に満ちることで、肝の「木の気」も自然と養われ、五行の調和が、日々の食卓の中で静かに実現されているのです。
しかし、これほどまでに驚くべき知恵が、単なる偶然から生まれたとは思えません。
古人は「天人合一」と言い伝えてきました。古代の中医学や食の知恵は、単なる経験則ではなく、「神から伝えられた文化」とされてきました。中国であれ西洋であれ、人類の文明の起源は「神によって創られた人間」から始まったと語られています。日本もまた、東洋文化の継承者として例外ではありません。
こうした一見素朴な伝統食材の選び方、調理法、組み合わせ方にこそ、天地の運行とつながり、五行の理と響き合う叡智が込められているのです。それは、私たちに「天地自然への敬意」や「神仏への感謝」を忘れないよう、そっと語りかけているのではないでしょうか。
(翻訳編集 華山律)
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