糖尿病薬が運動効果を弱める可能性

メトホルミンは糖尿病管理の第一選択薬で、2023年にはアメリカで約8600万件の処方が出されました。しかし、新たな研究では、メトホルミンが運動による利点を弱める可能性があることが示唆されています。

医師たちは長年、高血糖の患者に対してメトホルミンと運動を併用するよう勧めてきました。これら2つの実績ある療法を組み合わせれば、より良い結果が得られると考えられてきたからです。

「多くの医療従事者は1+1=2だと考えています」と、本研究の主任著者でラトガース大学教授のスティーブン・マリン氏は声明で述べました。「しかし問題は、多くの証拠がメトホルミンが運動の利点を鈍らせる可能性を示している点です」

この点は懸念材料です。なぜなら、メトホルミンを服用している人の多くは糖尿病や過体重を抱えており、血糖コントロールや体力向上のために運動に取り組んでいるからです。

本研究に関わっていないケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部のベトゥル・ハティポール(Betul Hatipoglu)教授はエポックタイムズに対し、この研究はメトホルミンが運動によって通常得られる血管のインスリン感受性の改善を減弱させる可能性を示した点で重要だと語りました。
 

薬が運動の利点を鈍らせる

ラトガース大学の研究者らは、メトホルミンが運動による血管機能、体力、血糖コントロールの改善を弱める可能性があることを報告しました。『The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism』に掲載されたこの研究では、糖尿病や心疾患リスクを高める代謝症候群のリスクを持つ72人の成人が対象となりました。

参加者は4つのグループに分けられました。プラセボ+高強度運動、メトホルミン+高強度運動、プラセボ+低強度運動、メトホルミン+低強度運動です。16週間にわたり、研究者らは食後に酸素や栄養素を組織へ届ける血管機能の変化を測定しました。

その結果、運動単独ではインスリン応答が改善し、血管のインスリン感受性が高まり、筋肉への血流が増加し、食後血糖の低下を助けることが確認されました。

さらに、運動のみを行った群では、炎症指標や空腹時血糖値の低下も見られました。

一方で、メトホルミンを併用すると、これらの改善が小さくなり、体力向上の程度も抑えられました。

運動は血糖を下げ、身体機能を改善するうえで重要であり、どちらも糖尿病治療の大きな目標ですとマリン氏はエポックタイムズに語っています。メトホルミンがこれらの利点を弱めるとすれば、患者は本来得られるはずの効果を十分に享受できない可能性があります。

「運動をしているにもかかわらず、メトホルミンを服用していると血糖の改善が十分でない可能性があるのは問題です」と彼は述べています。「また、メトホルミンを服用している群では体力の向上も限定的でした。これは身体機能の改善が十分でないことを意味し、長期的な健康リスクに影響する可能性があります」

マリン氏は、以前の研究でもメトホルミンが筋力トレーニングによる筋肉量の増加を抑える可能性が示されていると指摘しました。

「これらの結果から、メトホルミンは持久力運動とレジスタンス運動の両方の健康アウトカムに干渉する可能性があると考えられます」と彼は述べています。

重要なのは、メトホルミンは依然として糖尿病治療において有効な薬剤であるという点です。この研究は、運動の有益な効果を弱める可能性があることを示唆したにとどまります。

今回の結果は、運動を始めるのと同時にメトホルミンを開始するケースを想定していますとマリン氏は説明します。一方で、別の研究では、まずメトホルミンを一定期間服用してから運動を開始した場合、メトホルミン単独よりも大きな改善が見られる傾向があることも示唆されています。

これは、体がすでにメトホルミンに適応した後に、運動という新たな刺激が加わるためではないかと彼は述べています。

ただし、同時開始と段階的開始の長期的な健康影響を直接比較した研究はまだ行われていません。

「この2つの療法をどのように最適に組み合わせるかについては、さらなる研究が必要です」とマリン氏は述べました。
 

何が起こっている可能性があるか

メトホルミンが運動の利点を弱める理由は完全には解明されていませんが、薬の作用機序が関与している可能性があります。メトホルミンは細胞のエネルギー産生を担うミトコンドリアの働きの一部を抑制し、それによって細胞ストレスを軽減し血糖コントロールを改善します。

しかし、その同じ作用が、運動によって引き起こされるミトコンドリア機能の向上や有酸素能力の増加といった適応を妨げている可能性もあります。

アメリカでは約3500万人が2型糖尿病を抱えており、予防や管理には生活習慣の改善と薬物療法の両方が用いられます。これらが期待通りに機能しない場合、合併症のリスクが高まる可能性があります。

メトホルミンは血糖管理に有効ですが、薬と運動を組み合わせたからといって「必ずしもどちらか単独より優れているとは限らない」とマリン氏は述べています。

最後にマリン氏は、今回の結果がメトホルミンの服用をやめる、あるいは運動を控えるべきだという意味ではないと強調しました。むしろ、医師が治療の組み合わせ方を慎重に検討し、患者の経過を丁寧にモニタリングする必要があることを示しています。今後の研究によって、両方の利点を最大限に生かす方法が明らかになる可能性があります。

(翻訳校正 日比野真吾)

がん、感染症、神経変性疾患などのトピックを取り上げ、健康と医学の分野をレポート。また、男性の骨粗鬆症のリスクに関する記事で、2020年に米国整形外科医学会が主催するMedia Orthopedic Reporting Excellenceアワードで受賞。