【大紀元日本9月16日】
長安一片月
萬戸擣衣声
秋風吹不尽
総是玉関情
何日平胡虜
良人罷遠征
長安、一片(いっぺん)の月。萬戸(ばんこ)衣を擣(う)つの声(こえ)。秋風、吹いて尽きず。総(す)べて是れ、玉関の情。何(いず)れの日にか胡虜(こりょ)を平らげて、良人(りょうじん)遠征を罷(や)めん。
詩に云う。長安の夜空には、冴え冴えとした満月が上がっている。その月に照らされた町のあちこちの家から、衣をうつ砧(きぬた)の音が聞こえてくる。秋風は吹き止まない。月光、砧の音、秋風、それらの全てが、遠い西方の玉門関に出征している夫を思う、私の心をかきみだす。ああ、いつの日になったら胡(えびす)どもを平らげ、わが夫は、遠征を終えて帰ってくることだろう。
李白(701~762)の作品。日本でもよく知られたこの詩は、春夏秋冬の4連作のうちの秋の歌にあたる。タイトルの子夜呉歌は、この詩の題名というわけではなく、古くからある楽府題(がふだい)の一つで、李白のいた唐代より4百年ほどさかのぼった東晋の時代に子夜(しや)という女性が歌った民謡だといわれている。
その哀調に満ちたメロディーがよほど人気を呼んだらしく、多くの後人がこれにならって子夜呉歌をつくった。実のところ、唐代には本来の子夜呉歌のメロディーは途絶えていたらしいが、李白は、南方の民歌である原歌になぞらえながらも、風土や背景を全く変えて自身のオリジナル作品をつくったのである。
月は、空にあるだけで人に深くものを思わせる。秋風もその情感を後押しする。砧で衣をうつのは家庭の女の仕事であるから、その音が長安の町いっぱいに響けば、なおさら胸に迫るものがある。
豪快かつ奇想天外な発想をもち、男同士の熱い友情を朗じたかと思うと、非常に繊細で優美な「おんな歌」も詠む。それがまた男性歌にもまさる秀作であるから、李白という詩人は、つくづくおもしろい。
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