年齢を重ねると歯のトラブルや歯を失うことは避けられないと考える人が多く、そのため口のケアをおろそかにしがちです。しかし、口の健康は全身の健康と深く関係しています。
ニューヨーク大学の臨床助教授で歯科医のグレン・ンガン博士(Glenn Ngan)は、健康情報番組「健康1+1」に出演し、歯周炎の再発を防ぐための口腔ケアの重要性や、入れ歯の選び方について語りました。ンガン博士によると、「適切なケアを続ければ、高齢になっても歯を健康に保つことができる」とのことです。
歯周炎と全身性炎症
歯周炎は慢性的な炎症を引き起こす病気で、歯の喪失を招くだけでなく、心血管疾患や糖尿病、アルツハイマー病、自己免疫疾患、さらにはがんなど、さまざまな疾患と関係しています。
歯周炎の細菌が血流に入ると、菌血症(きんけつしょう)を引き起こし、全身の炎症が悪化することがあります。しかし、歯周炎を治療すると、こうした炎症の指標が改善されることが分かっています。
ンガン博士は「歯ぐきの炎症は、腫れや出血、開いた傷を引き起こすことがあります」と説明します。「口の中の細菌が血流に入り込むと、血管や心臓に影響を与え、全身の炎症を引き起こすことがあります。そのため、口の健康を守ることは、全身の健康にもとても重要なのです」。
歯周炎のリスク
歯周炎は歯周病の重度な形態です。アメリカ歯周病学会によると、歯周病の初期段階は歯肉炎で、歯茎が赤く腫れ、出血しやすいものの、大きな不快感はないのが特徴です。
治療せずに放置すると、歯肉炎は歯周炎に進行する可能性があります。歯肉と歯の間にポケットが形成され、細菌が蓄積します。時間が経つにつれて、歯肉と歯槽骨が徐々に退縮し、最終的には歯が抜け落ちることがあります。
歯肉炎は治るのか?
ンガン博士は、治療後に歯ぐきの後退や出血がなくなれば、歯肉炎はしっかりと抑えられている状態だと説明します。
歯肉炎は適切な治療で進行を抑えられますが、再発を防ぐには、毎日の口腔ケアと定期的な歯科検診が欠かせません。
ただし、重度の歯肉炎によって歯を支える骨(歯槽骨)が大きく損なわれると、元の状態に戻すのは難しくなります。骨の衰えは一般的に30歳頃から始まるため、治療が遅れて歯槽骨が大きく失われると、入れ歯を作るのも難しくなることがあります。
予防策
ンガン博士によると、年に2回の歯科検診とクリーニングを受けることが推奨されています。これらの診察では、歯科医が専門的に歯垢や歯石を除去し、歯肉炎の兆候を早期に発見・治療することで、症状の悪化や歯を失うリスクを防ぐことができます。
すでに歯周病が進行している人には、「ディープクリーニング」と呼ばれる専門的な治療(スケーリング&ルートプレーニング)が行われます。スケーリングでは歯の表面や歯ぐきの下にたまった歯垢や歯石を取り除き、ルートプレーニングでは歯の根元の汚れを徹底的に除去します。
また、半年ごとの歯科検診に加えて、毎日の正しい歯磨きもとても重要です。ンガン博士は「虫歯や歯周病の主な原因は口の中の細菌ですが、しっかりと歯を磨くことで予防や進行の抑制が可能です」と強調しています。
歯の正しいケア方法
ンガン博士は、虫歯や歯肉炎の原因となる細菌を効果的に取り除くために、次の方法を推奨しています。
- 食後は口をすすぐ
- 1日2回歯を磨く
- デンタルフロスを使い、歯の隙間の汚れを取る
- 電動歯ブラシを活用する
ンガン博士によると、食後にコップ一杯の水を飲むことで、口の中の食べかすを洗い流すのに役立ちます。特に食物繊維が豊富な食品は、歯の隙間に詰まりやすく、歯ブラシだけでは取り除きにくいことがあります。その場合、デンタルフロスを使用すると効果的です。また、入れ歯を使用している人は、特定の場所を清潔に保つのが難しいため、水流で汚れを落とす「ウォーターフロッサー」が役立ちます。
ンガン博士は「歯は毎日2回磨くことが大切です」と強調します。特に電動歯ブラシは手磨きよりも効率的に汚れを落とすことができるため、子どもや歯磨きが苦手な人にもおすすめです。
電動歯ブラシを使う際は、歯と歯ぐきに軽く当て、1か所につき約10秒間そのままにしてから次の場所に移動します。手でゴシゴシこする必要はなく、電動歯ブラシの振動や回転を利用するのが正しい使い方です。
健康な歯ぐきであれば、歯磨き中に出血することはありません。ンガン博士は「もし出血が1週間以上続く場合は、歯科医に相談し、原因を調べてもらうことが重要です」と指摘しています。
また、ンガン博士は「毎日の口腔ケアだけでなく、歯に過度な負担をかけないことも大切です」と述べています。特に高齢者や過去に歯の治療を受けた人は、硬い食べ物を直接かじることを避けるようにしましょう。
例えば、キャンディーやするめ、ジャーキーなどを強い力で噛むと、歯の根が折れるリスクがあります。歯を守るためにも、食べ方に気をつけましょう。
入れ歯の種類
歯周炎が原因で歯を失った場合、義歯が必要になります。ンガン博士によると、固定式の義歯は一般的に取り外し式よりも機能的に優れており、安定性が高いですが、どのタイプが適しているかは個人の状況により異なります。
取り外し式の義歯は、歯ぐきの上に載せるタイプで、装着が比較的簡単で、見た目も美しいという利点があります。しかし、歯ぐきに圧力がかかるため、特に歯槽骨が劣化している場合、噛むときに不快感を感じることがあります。もし天然歯が残っている場合、取り外し式義歯の安定性を高めることができますが、天然歯が全く残っていない場合には、2~4本の歯科インプラントで取り外し式義歯を支える方が良い結果が得られます。
固定義歯は装着後に自分で取り外すことができないタイプです。安定感があり、噛む力が強いため、天然歯に近い感覚が得られます。しかし、固定義歯を装着するためには特定の条件が必要で、できるだけ天然歯が残っていることが理想的です。もし天然歯が不足している場合、大きな固定義歯をしっかりと支えるために、6~7本のインプラントが必要になることがあります。
ブリッジと義歯は、いずれも欠損した歯を補うためのものですが、構造と用途が異なります。ブリッジは、失った歯の隣接する天然歯またはインプラントに固定して、1本または数本の歯を補う方法です。一方、義歯は複数の歯、またはすべての歯を置き換えるために使用されます。ブリッジは固定式で取り外しはできませんが、義歯には取り外し可能なタイプと、固定式のタイプがあります。どちらを選ぶかは、デザインや患者さんの状況に応じて決まります。
負担の少ないインプラント治療
ンガン博士によると、負担の少ないインプラント治療では、歯ぐきを大きく切開せずに、小さな穴を開けてインプラントを埋め込む方法が取られます。この技術により、施術時間が短縮され、切開が最小限となり、出血も少なく、回復も早くなります。
ンガン博士は、上あごの歯を2本失った患者に対するインプラント治療の例を紹介しました。歯科用CTで骨の状態を確認した後、その画像をもとにインプラントを設計。さらに、X線で正確な位置を確認しながらインプラントを埋め込み、施術は約30分で完了しました。患者は1週間ほどで完全に回復。その後、3〜6カ月間経過を観察し、最終的なかぶせ物を装着しました。
ンガン博士は、「できるだけ早く治療を受けることが大切です」と強調しています。
「何本も歯を失ってから歯医者に行くのではなく、できるだけ早く歯周炎などの問題に対処することが大切です。早めに治療すれば、それだけ選択肢も広がります。口の健康を守ることは、全身の健康を守ることにつながります」


(翻訳編集 華山律)
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