【伝統を受け継ぐ】パイプオルガン造り「マイスター」

【大紀元日本6月3日】しばらくぶりのベルリンは、イースター間近だというのに雪だった。イースターの間も降り続き、春はまだまだという雰囲気だったが、庭のクロッカスが雪の間から顔をだし、「もうすぐですよ」と春の到来を告げていた。

ベルリンには、ヨーロッパ各地のパイプオルガンのみならず、日本の愛知芸術文化センター、石川県立音楽堂、NHKホールなど、多くのコンサートホールや教会のパイプオルガン建造や調律を手掛けたマイスターがいる。10年ぶりに旧交を温め、本稿のために話を聞こうと連絡してみた。「実はひざを痛めてね。今はオルガン造りはやってないんだ。でも、オルガンの話なら、よろこんでするよ」という返事で、ベルリン南部の閑静な住宅地にあるご自宅を訪ねた。

ドイツ屈指のパイプオルガン製作所、カール・シュケ社の若きマイスターだったフランク・ロッソ―さんは、28歳の若さでマイスター試験に合格して数々のパイプオルガン建造に携わった。

ドイツには、手工業の伝統を維持し、レベルを保持し、後継者を育てるための職業教育制度、「マイスター制度」がある。「マイスター」というのは、一生に1度しか受けられない、やり直しは利かない、という厳しい条件のマイスター試験

職人試験で21歳の時にロッソーさんが造ったミニオルガン(大紀元)

に合格した職人に与えられる資格である。

パイプオルガン建造マイスターに求められる能力とは、木工・金属加工など多岐にわたる技術全般はもちろん、音楽理論、経理・法律など経営にかかわる知識、それに後継者を育てるための教育指導に関する能力をも備えていなくてはならない。

「まず、パイプオルガンは管楽器である、ということは知っているね」とロッソーさん。鍵盤で操作する楽器ではあるけれど、原理はパイプに風を送って、パイプつまり笛を鳴らす管楽器ということなのだ。原型はパンの笛で、複数の笛を束ねて吹く笙(しょう)の笛などと同じ仲間だという。そういえば、パイプオルガンの表面に並んでいるパイプの形は確かに笙に似ている。

ところで、パイプオルガンには何本ぐらいのパイプが使われているのだろう。「それはオルガンの大きさによって様々なんだ。表から見えるものはほんの一部分で、多くは裏側にあって見えないんだよ。例えば、NHKホールや僕が手掛けた愛知芸術文化センターのオルガンは大きい方で、7000本ぐらいパイプを使っているんだ。金属のパイプと木製のパイプがあり、太いものや細いもの、長いものは10m位、短いものでは1cm足らずのものもある」という。

「一本、一本のパイプに対応する鍵盤があって、それを押すことによってパイプに空気が通り音を出すんだ」。といっても、7000本のパイプに対応する7000のキーがあるわけではなく、風を通すパイプ群と通さないパイプ群をストップという装置を使って選んで、多彩な音色を出すという。

「パイプオルガンは一つのオーケストラに例えることができるんだよ。バイオリンのパートを演奏するパイプ、チェロのパート、木管楽器のパートなどストップを使って切り替えながらオーケストラのようにいろいろな音色を出せるんだ」「パイプオルガンが楽器の女王と呼ばれる由縁だね」とロッソーさんの話に熱がこもる。

17歳でカール・シュケ社に入り、オルガン造りの修業を始めたロッソーさんだが、どんな経緯でオルガン職人の道を選んだのだろうか。「木工が好きで、将来はそちら方面に進みたいと思っていたんだけれど、母がオルガン造りが向いているんじゃないかと言ってくれたんだ」

調べてみたところ、オルガン職人に求められる資質は、木工や機械技術に優れていること、音楽性とくに聞く能力が優れていること、楽器が演奏できることなどで、確かに自分に合っていると思ったという。「それに、教会のコーラスで歌っていたことも影響したかもしれないな」

現在はベルリン工科大学の契約管理関連の仕事をするロッソーさんだが、「またオルガンを造りたいと思いませんか」とたずねると、「もう十分作ってきたからね。それに、オルガン建造ブームは過ぎて、新しい契約を取るのは難しくなっているし……。43歳というのは転職には最後のチャンスだった」「(今の仕事は)オルガン職人よりも体がラクで給料もいいんだから、満足しているよ」。以前より一回り体の大きくなったロッソーさんは家族に囲まれてゆったりとほほ笑んだ。

ベルリンのカイザー・ヴィルヘルム教会のパイプオルガン(撮影・Helga Braun)

石川県立音楽堂のパイプオルガン(写真提供・Karl Schuke Berlin)

(温)

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