口達者よりも温厚

孔子曰く、「巧言令色鮮し仁(こうげんれいしょくすくなしじん)」。言葉巧みで愛想を振りまく者には誠実な人間が少なく、人として最も大事な「仁」という徳の心に欠けていることをいう。人の内心にある虚実は必ずその人の行動に表れる。巧妙に装うより、ありのままの自分をさらけ出したほうがよい時もある。口達者で自分を装うことを得意とする人がこの道理を知った時、きっと自分の行動に恥じらいを感じるだろう。

 ある日、漢文帝が上林苑(長安の西方にあった大庭園)で動物を見ていた時である。彼は檻の外から虎を見ながら、同行している上林尉(官職名)に動物の数などを含め、いくつかの質問をした。しかし、上林尉はすぐに答えることが出来なかった。この時、傍にいた嗇夫(雑役夫)が前に出て、上林尉の変わりにすらすらと答えた。漢文帝は嗇夫の巧みな口弁に感心し、同行している大臣・張釈之に嗇夫を上林令に抜擢し、上林尉の変わりに上林苑を管理させるよう命じた。

 しかし、張釈之は漢文帝に言った。「上林尉たちは朝廷で重任に就いており、人望もあります。しかし、二人とも口が達者ではありません。もし、嗇夫の口が達者であるというだけで特別扱いするのなら、国民は次々とこれを真似するでしょう。すると誰もが口先だけで物事を行うようになり、社会の風紀が乱れてしまいます。どうか、お考え直しください」

 張釈之の意見に道理があると感じた漢文帝は、命令を取り消したという。
 

 (翻訳編集・天池 花蓮)