チベットの光 (72) 如何にしたら勇猛精進できるのか

【大紀元日本11月1日】この時、チベットで盛大な法会が開かれ、尊者の多くの弟子たちもこの法会に参加していた。高弟のラチンバは、その前日に夢を見た。夢の中で天神たちがミラレパにその一生の故事を語らせていたのである。そうして、彼は法会で師父の前にひざまずいた。

 「先生、これまでの神仏菩薩は、衆生を救済するために、その一生中に不可思議なことを顕し、これらは伝記として後世に伝えられています。これらの伝記を目にした人は、それ以降は善に向かい、向上しようとします。インドのノノバ尊者や先生の師父マルバ尊者も、これまでの軌跡を講じて、後世の人にそれらを残し、学習の対象となっています。ですので、先生もわれわれ弟子と後世の人たちのために、その偉大な軌跡を講じてください」

 ミラレパ尊者はこれを聴くと、穏やかに言った。「ラチンバや、おまえはもう多くの事を知っている。しかし、特にこのことがでてきたので、講じることにしようか」

 尊者は弟子たちに、その一生の故事を話し始めた。その悲しく辛い出来事は、聴く人に感動を与え、多くの人たちが涙を流した。尊者が幼少の頃に叔父や叔母から受けた虐待について話すと、聴いていてつらくなり意識が遠退きそうになる者もいた。

 尊者が講じ終えると、あらゆる人が、自身の心霊が浄化されたように感じた。修行の上では勿論、智慧の上でも一層向上したかのようであった。

 「尊者様、あなたは正法を求めていたとき、どんな苦労を嘗めて屈辱的なことがあっても、師父を敬い、信じて、刻苦忍耐されました。そして法を得てからは、無人の洞窟の中で修行されました。これらのことは、われわれにはできないし、この法を修める勇気もありません。しかし修めなければ、輪廻の苦痛から解脱できません。ではどうしたらいいのでしょうか」。シワア行者は憂慮して問うと、苦痛で泣き出した。

 「そんなに悲観するとこはない」、ミラレパは答えた。「君は常に三悪道と輪廻の苦痛について考えているね。そうすれば、自然と勇猛精進しようとする心も起きようし、また法を求める心もまた強くなる。因果応報を深く信じることだよ。そうすれば、行為の上で普通の人より謹慎もするだろう。他の人を傷つけ、業を造ることのないよう気をつけ、善に向かって、自らのよくないところをなくせば、それが仏法の基本だ」

 「私は因果応報を堅く信じていたので、自らが大きな業を造ったことを知った。もし今生で成道できずに佛になれなかったら、地獄に堕ちるところであった。私はそれが怖くて、自然と師父を信じることができ、また勇猛精進して刻苦修行することができたのだ。もし君たちが時として輪廻の苦痛を思い、その人身を惜しみ、人間界の逸楽と名利に惑わされずに、修行に励めば、そのようにすれば私が保証するが、必ずや成就して解脱する」

 「もし皆が内心の深い所から因果応報を信じて、悪道の苦痛を恐れ、無上の仏果を求めるなら、そのような人もまた私と一緒で、師父に対して敬虔な信仰を持つであろうし、またこのために最大の努力をして修行に励み、到達することができるだろう。君たちも常に六道輪廻の苦痛を思い、人身の得難きことや生命の無常を心に刻めば、勇猛精進して実修することができる」

 こうしてミラレパ尊者は自分の一生の故事を語り終えた。法会に参加した弟子たちは皆仏法を敬虔に信じ、正法を修める決心をした。

 最後に、尊者の高弟らは皆一生、精進して修行し、衆生に利することを多く行うと尊者に誓った。また、俗世の民衆の中でも良い人は、尊者の故事を聞くと、尊者を師と仰ぎ、優秀な修行者となり、一般の人もこれから修行することを願った。また、凡人も一生悪事は働かず、常に善事を行うと決心した。法会に参加した全ての人は皆、尊者の一生の故事を聞くと、深い感動を受け、向上することを決心した。

 尊者はこのように各地で正法を伝え、衆生のために多くのことを行い、その後、ティンリ地方に着いた。

 (続く)

 

(翻訳編集・武蔵)

 

 

 

 

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