天津爆発事故

天津爆発から1カ月 住民の強い不安 補償交渉に圧力も

 世界有数の港湾都市・天津の爆発事故から1カ月が過ぎた。政府は調査の進度や地区の安全性をアピールするものの、事故原因はいまだに明らかになっておらず、住民の不安は拭えていない。補償内容の不透明さにも不満を抱いている。

 事故現場近くに住んでいた住民たちは、補償の交渉や、荷物を取るために一時退避先から戻り始めた。交渉に当たった住民の鄭さん(仮名)は、「どれだけ侮辱されたかわからない。政府は『災難で利益を得るだろう』と被害者を罵った」と、海外の中国ニュースサイト、ティー・リーフ・ネイションの取材記者に、怒りをあらわにした。

 地元政府は、被害住宅を「市場価格」の1・3倍で買い取るとの案を提示し、11日には、70%にあたる9000以上の所有者が補償に同意したと発表した。

 しかし、地価高騰のため、同地区の不動産価格は2倍以上も値上がりしたため、政府の提示した補償内容は安く、以前と同等の住宅を購入することは見込めない、と鄭さんは嘆く。

 別な住民は、合意に向けて、政治的な扇動があったと明かした。若い夫婦と両親の4人で同居していた張さんは、「軍事パレードが行われた日、入院中の患者を見舞う政府高官の様子が、テレビで放送された。それを見て(住宅所有者である)両親は、補償合意書にサインしてしまった」という。

 また、公務員や国営企業社員は補償に合意するよう、勤務先からの圧力があったことが、海外メディアの取材で明らかになっている。

補償を受けられない住民も 事故の恐怖に怯える

「3歳の娘は、明るい光と音を怖がる。私と主人も、風で窓が動くだけで『また爆発するのか』と考えてしまう」。胡さん一家は、事故発生の数日前に、天津浜海新区に引っ越してきたばかりだった。爆風により窓ガラスが割れ、ベッドや扉が破損した。

 胡さんが住むマンションを管理する不動産会社が政府と交渉した結果、物件は賠償の対象にならないことを通知された。賠償の基準は明かされていない。

 爆薬の原料にもなる硝酸アンモニウムなどが大量に保管されていたことがわかっている。「近くに危険物管理倉庫があるなど、誰も知らされなかったのではないか。住宅の購入前に知っていれば、買わなかった」と不満を述べた。

高額な「殉職者」への補償で、住民をなだめる

 事故の死者100人以上は消防士や警察であったことが伝えられている。消防士の遺族には、230万元(約4600万円)の補償金が支払われることが決定した。これは、中国の年間平均所得の20倍にあたる。同情が集まりやすい「殉職者」に手厚い補償をあてることで、住民の感情をなだめようとする狙いがあると見られている。

 中国の消防士は、3カ月の訓練を受けただけで現場入りする。知識は浅い期間労働者だ。天津爆発事故では、水と反応すると有毒で可燃性のアセチレンガスを発生する、炭化カルシウム(カーバイド)に放水したため、被害が拡大した。「人災だ」と、政府の危機管理体制に批判が及んだ。

 危険物管理倉庫が置かれていた爆心地には、大爆発により隕石孔のような穴が空いた。政府メディアによると、この穴はすでに埋められたという。事故跡地には、「海港生態(エコ)公園」が建設されると、早々と計画が発表された。事故原因が明らかになっていないにもかかわらず、痕跡を消そうとしていると、国内外で非難が絶えない。

天津爆発事故の跡地に、海港生態(エコ)公園の建設計画(天津日報スクリーンショット)

(翻訳編集・佐渡道世)

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