中共当局は経済の活性化を図ると宣言し、民間経済への支援を強化すると表明した。北京市民の翟さんは、これらの政策を中共当局が民間企業に仕掛けた罠ではないかと疑っている。写真は北京の青果市場で、QRコードで決済する若い女性(Getty Images)
アプリの脅威

人気アプリ「WeChat」ユーザの全データを中国当局に送信

北京の街中にある昔ながらの青果市場。若い女性は、量り売りの果物を必要な分だけ取ると、スマートフォンを取り出し、露店に掲げられたQRコードを読み込み、会計を済ませた。いわゆる「スマホ決済」は、ネット銀行の口座から直接引き落としとなり、中国ではクレジットカードよりも普及している。

なかでも、中国で最も人気のある多機能アプリ「微信WeChat)」は、6億6000万人の携帯利用人口でトップシェアを誇る。電子決算で公共費払い、市場やレストランの買い物、求人や住宅広告情報の入手、自動車・自転車のレンタルなど、生活に欠かせないツールとなりつつある。

電子決済の人口が世界トップの国と、AFP通信は専門家の話として伝えている。背景には、ニセ札の横行で、紙幣に対する信用が低いためでもある。

中国在住の日本人は「日本は現金主義だな。中国の手続きは震えるほど便利」などソーシャルサイトでつぶやく。電子社会に適応したアプリのメリットが、次々とネットで紹介されている。

利便性ばかりが着目されているWeChat。しかし、中国は共産党独裁体制であり、ユーザの言動は厳しく検閲されており、アプリを通じて個人情報は中国当局に送信されていることに警鐘を鳴らす人は、多くはない。

世界で最も厳しく検閲されているアプリ

2015年、山西省で、QRコードを読み込み、求人情報を取得する男性(Getty Images)
 

最近、WeChatは、ユーザの個人情報を「関連法や規制」に従って中国当局に提供するとのメッセージを表示し、「プライバシーポリシー」に同意するよう求めるようになった。送信される情報は、WeChatの検索結果、閲覧情報、連絡帳、個人間メッセージ、サービス利用履歴、位置情報など。

中国は10月1日からWeChatをはじめQQ、微博(ウェイボー)、百度(バイドゥ)、支付宝(アリペイ)ほか大半のSNS(ソーシャルサ―ビス)に実名制を取り入れる。この「プライバシーポリシー」の同意や個人番号などを基にした実名登録を行わないと、サービスの利用制限がかかる。

言論統制で「言葉狩り」が横行 封建王朝の再来か

中国は現行の法律で、裁判所や公安当局は、市民の財産や私的なデータを押収するのに捜査令状を出す必要がない。そのため、中国当局は基本的にWeChatユーザーの全データにアクセスすることが可能だ。中国が「法治国家」「三権分立」は確立していないと非難されている点でもある。

10月開催予定の、5年に1度の中国共産党第19回全国代表大会(19大)を目前に控え、党は、ネット言論の取り締まりを強化する姿勢をみせている。新華社によると、習近平国家主席はインターネットの安全保障の取り組み工作会議で「インターネットは法外の地ではなく、国家政権の転覆、宗教上の極端主義の扇動、民族分裂思想の宣伝、暴力テロ活動の教唆といった行為は断固として止めて打撃を与えなければならない」と述べた。

国際人権組織アムネスティ・インターナショナルは、2016年の調査で、WeChatを「世界で最も厳しく検閲されているアプリ」のひとつにあげた。ユーザのプライバシーや発言の自由でランク付けしたところ、WeChatは100点満点中、0点だった。つまり、ユーザを通じた情報交流は暗号化の保護もされず、「筒抜け」になっていると言っても過言ではない。

6億人のユーザは、中国当局による完全な監視体制下に置かれている。

(編集・佐渡道世)

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