貞観政要

明君と暗君の違い

唐太宗の治世は中国史上でも最も栄えた時代の一つで「貞観の治(じょうがんのち)」と呼ばれ、後世の賢帝と呼ばれた皇帝たちも政治のお手本とした時代であった。『貞観政要』は唐太宗と太宗を補佐した名臣との政治問答集で、日本では徳川家康が非常に愛好していたのをはじめ、数々の為政者が『貞観政要』から為政者たるものどうあるべきかを学んだ。

貞観の初め、太宗は魏徴(ぎちょう)に言った。「賢明な君主、愚かな君主とは何をもって言うのだろうか」。

魏徴はこう答えた。「賢明な君主はあまねく広く臣下の話を聞きます。愚かな君主は気に入った臣下の話しか聞かず信じようとしません」。詩には「先人言うあり芻蕘(すうじょう)[1]に問う」とあります。古の聖なる天子、堯、舜(しゅん)の代には四方の門を開き、世の中の動きをよく捉え、広く人々の話を聞き、その恩恵の行き届かないところはありませんでした。だから共工(きょうこう)[2]や鯀(こん)[3]など悪しき輩も目や耳を塞ぐことはできず、言葉だけはよいが行動が伴わない者に惑わされなかったのです」

秦の二世の胡亥(こがい)は宮中深く起居し、宦官(かんがん・去勢を施された官吏)の趙高(ちょうこう)以外の家臣を遠ざけ、趙高だけを信じ、天下が乱れ人心が離れるまで、気づくことができませんでした。梁(りょう)の武帝も寵臣(ちょうしん・寵愛をうけている家臣)の朱异(しゅい)だけを信じ、将軍の侯景(こうけい)が反乱の兵を挙げて宮廷に向かってきても、まだ信じようとしませんでした。また、隋の煬帝(ようだい)も、側近の虞世基(ぐせいき)の言うことだけを信じ、賊が城を攻め村を荒しても、気づくことが出来ませんでした。

「このような例でも明らかなように、君主たる者が臣下の意見をあまねく聞くならば、よく下々の実情を知ることができるのです」

太宗は魏徴の言葉に大いに頷いた。

 

[1]身分の低い者

[2]中国神話に登場する天下に害をなした悪神。水神。舜(しゅん)の時代に洪水を起こして暴れ、幽州へ追放された。

[3]中国神話に登場する天下に害をなした悪神。

 

(大道修)

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