道教の名山 武当山

古代中国では多くの修行者が山に入って修行していた。天地神明を信奉する中華伝統文化の中で、多くの修行者が集まる山は官民の崇拝対象になっていたのだ。

 武当山(ぶとうさん)は道教の修行者の聖地として知られ、道教の第一名山で太和山とも称された。中国湖北省十堰市にあり、春秋時代からすでに修行者の集まる山として、魏晋南北朝の時期に大きな発展があった。

 唐の貞観元年(紀元627年)、太宗の詔により五竜祠が建てられ、唐朝の後期には道教72カ所の福地の一つとされた。宋元時代、皇室は武当山を真武神として崇拝し、明朝には「太岳」、「治世玄岳」、「皇族家廟」として道教の第一名山になった。

 ここには多くの道教の古代建築物がある。唐代から造られはじめ、宋代と元代に発展を遂げ、明朝に最盛期に達した。

 明代の永楽年間(1403~1424年)に、「北に故宮を造り、南に武当を建てる」という国策で、14年の歳月をかけて、33カ所の建築群が造られた。嘉靖年間(1522~1566年)には建築物が更に増やされ、道観(道教寺院)の数は2万軒以上に達した。すべての建築物は「真武仙人修行地」の言い伝えにしたがって配置され、道教の「天人合一」の思想が反映された。

 残念ながら共産党政権以後、1958年から建設された丹江口ダムにより貴重な宮殿の一部は沈没し、現在古い建築物は53カ所、遺跡は9カ所しか残っていない。現存の道観と建物は1994年にユネスコ世界遺産(武当山古建築物群)に登録された。

 真武大帝と武当山

 真武大帝(しんぶたいてい)は、また玄天上帝(げんてんじょうてい)と呼ばれる神の一人で、昔、武当山で修煉し得道した。

 真武大帝の修行にまつわる遺跡として、「磨針井」(針を研ぐ井戸)が残されている。伝説によると、彼がここで修行していた頃、一時、山から下りて俗世間に戻ろうとした。「磨針井」のあたりに下りると、一人の老婦人が鉄の棒を研いでいるのを見かけた。不思議に思った真武は、何のためにこの鉄の棒を研いでいるのかと老婦人に尋ねた。すると老婦人は、「縫い針を作るためだよ」と答えた。

 こんな太い鉄の棒でいつ縫い針ができるのかと不思議がっていると、老婦人は「鉄の棒を研ぎ、止めずに続ければ縫い針は必ずできる」と諭した。真武はこれを聞いて悟り、すぐに山へ戻って修行を続けることにした。やがて、仙人に成就したといわれている。

 武当山の名所 玉虚宮

 武当山の主峰の西北に、当時武当山で大規模に建築を行った時の大本営があり、「玉虚宮」(ぎょきょきゅう)と呼ばれた。真武大帝がここで修行して成就した後、天上の玉帝から「玉虚師相」に封じられたからだ。

 玉虚宮は武当山の建築群の中で規模が一番大きく、宮内に竜虎殿・朝拝殿・年殿・父母殿・啓聖殿・元君殿・無梁殿・望仙台・御花園及び各種の祠・堂・廟・壇・閣など2200の建造物があった。残念ながら、清朝の乾隆10年(1745年)に、火災によって玉虚宮の大部分の建物は破壊された。

 太極拳のゆりかご

 太極拳の創始者である張三豊はかつて武当山で修道していた。太極拳は彼が創立した修道法である。その意味から言えば、武当山は太極拳のゆりかごでもあった。

 張三豊は、本名を張君宝といい、宋朝の理宗佑時代1247年に生まれた。5歳から碧落宮の修道者である張雲庵の弟子になり、修道を始めた。元朝泰定甲子年(1324年)の春、77歳になった張三豊は武当山に入り、そこで9年間密かに修煉し、やっと成就して仙人の道を得ることが出来た。

 明朝の洪武17年、137歳になった張三豊は皇帝に招請され、さらに永楽14年、168歳の張三豊は明成祖皇帝に招請されたが、いずれも断った。

 太極拳は張三豊が修道するときに使った方法であるが、現在残されているのはその練習の動作だけでその心を修める道理は残されてはいない。

(翻訳編集・東山)

 

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