中国当局、一帯一路「借金漬け外交」払拭に躍起
中国共産党政府は第2回一帯一路フォーラムを開催した。中国の習主席は26日の演説で、「国際ルールに則る」と強調し、中国共産党の影響力拡大を図る「債務トラップ外交」に対する国際社会の懸念を払拭するよう、躍起になっている。
習近平主席はこのたびの講演で、「インフラ建設や運用、調達、入札には、国際ルールに則る。各国の法律も順守する」と述べた。
一帯一路は東南アジア、中央アジア、中東湾岸地域、アフリカ、ヨーロッパを陸路と海路でつなぐ現代版シルクロード構想。これらの海外インフラプロジェクトは、中国企業が入札し、中国企業が請け負うことを条件に中国金融機関が融資するケースが多い。また、労働力や資材も中国から持ち込まれることで、現地経済にメリットが少ないとの批判がある。
また、プロジェクトは透明性に欠け、現地で腐敗を助長しているとも言われている。
世界覇権の野心が垣間見える中国の一帯一路は、米国からの影響力を遠ざけて、関係国に力を拡大させていると懸念されている。
米国のジャーマン・マーシャル基金のアジア太平洋プログラムの上席研究員アンドリュー・スマール(Andrew Small)氏は、ブルームバーグへの寄稿文で、一帯一路プロジェクトの問題点は、共産党政権による強制的で不透明な国内での手法が、そのまま海外でも踏襲されている点だとした。
また、多くのプロジェクトは相互互恵的ではなく、中国主体の利益獲得に基づいていると批判した。
米ペンス副大統領は、一帯一路について2018年11月、アジア太平洋経済協力(APEC)会議で、「米国はパートナーの国々を債務の海に溺れさせるようなことはしない。締め付けるような「ベルト」(帯)や一方通行の「ロード」(道路)は提供しない」と批判した。
海外メディアによる一帯一路の批判と不評で、マレーシアやモルディブでは政権交代が起きた。野党は、財政力を度外視した中国融資プロジェクトに反対することで支持を集め、与党の座に就いた。
一帯一路の目玉とされる、中国と中東を結ぶ、中国とパキスタンによる2国間地域開発計画「中パ経済回廊」も、当初の予定より3分の1規模に縮小した。プロジェクトには高速道路、鉄道網、光ファイバー網など複数のインフラが含まれる。
インドは引き続き、パキスタンとの係争地域であるカシミールで、中国資本が投じて建設されているインフラ・中パ経済回廊に反対しているため、一帯一路には不参加を表明した。
貿易交渉中の米国は高官の派遣を見送った。日本も閣僚は参加していない。
デジタル・シルクロード
野村総合研究所のエコノミスト・木内登英氏は同社サイトで、一帯一路は既存の鉄道や道路などのインフラのほかに、5G通信網を敷き、電子商取引などのサービスを展開する「デジタル・シルクロード」を設立するとしている。こうすることで、一帯一路の沿線国からビッグデータを得ることができ「デジタル覇権」を広げるという。
前出のスマール氏は、中国のデジタル・シルクロードにより、光ファイバーケーブルや電気通信ネットワークといった、米国の安全保障と商業的利益に影響を及ぼすデジタルインフラの占有率を高めていることに懸念を示す。
共産党政府が軍民融合で注力し、補助金を捻出することで、中国は5Gネットワークを他企業よりも安価な提供を可能にしている。
さらに、顔面や生体認証、DNA検査を含む、監視システムが一帯一路関係国に拡大している。すでにケニアやカメルーン、マリやコートジボワールの首都には、華為科技(ファーウェイ)の監視ネットワークが整備されている。
中国最大手監視カメラの海康威視数字技術(ハイクビジョン)もまた、英国都市部、韓国全域、シンガポール、フィリピン、ブラジルの一部都市で監視システムが導入されている。米国では同社製品は、新疆ウイグル自治区における中国政府の人権侵害に加担しているとして、制裁対象として取引規制が検討されている。
スマール氏は、一帯一路の最も有害な側面を取り除くためには、関係国を借金漬けにするような中国の戦略的融資を制限することだと述べた。
いっぽうで、こうした共産党政策の核心に触れる一帯一路の問題点の修整には、おのずと、世界覇権をめぐる米国による対中強硬姿勢が期待されるとした。
一帯一路フォーラムが開かれるなか、欧州を周遊中の安倍首相は、スロバキア、チェコ、ポーランド、ハンガリーの東欧4カ国(V4)と首脳会合を行った。中国の一帯一路について、首相は秩序維持や自由経済、透明性確保や関係国の財政健全性の確保などが重要だと説いた。4カ国は参加を表明している。
中国が旧共産圏の中東欧諸国と経済関係の強化を図っている。2012年には東欧諸国を中心とした中国と欧州の協力枠組み「16+1」を設けており、100億ドル(約1兆1000億円)規模の融資枠を設け、積極的なインフラ投資を進めている。
安倍首相は、これに代替する「質の高いインフラ」を主張して、同日の欧州連合(EU)との首脳会議で、インフラ投資や金融支援などの協力を強化することで合意した。中国の影響力を押し下げる狙いがある。
(編集・佐渡道世)