「反米」と「親米」で揺れる中国メディア 当局のジレンマ
米中貿易摩擦が長期化する中、政府系メディアの論調は「反米」と「親米」で二分している。局面打開をめぐって中国指導部がジレンマに陥っていることが浮き彫りになった。
反米か親米か
中国国営・新華社通信と「光明日報」は8日、9日、党内の親米派を批判する評論記事を発表した。記事は、「親米派」がトランプ米政権に「(貿易戦において)降伏しようとしている」と指摘した。
これに対して、党機関紙・人民日報は10日、突如「米中の友好・協力関係は変えてはいけない」と題する記事を掲載した。記事は、米中の決裂は「想像できない」とし、米中関係は「協力関係」であり、「意思疎通をする」必要があり、「対抗関係」ではないと主張した。
また、人民日報は「一部の下心のある人が『新冷戦』をあおり、米中両国の国民の利益を犠牲にしようとしている」と、米側に歩み寄る姿勢を示した。
しかし、6月11日の人民日報は一転して、親米派への批判を展開した。「ごく少数の人が『米国恐怖症』で、米国を崇拝し、米国に降伏する意図がある。この人たちは、降伏が唯一の選択肢だと主張する」
習政権のジレンマ
在米中国人学者、李恒青氏は、「政府系メディアは『親米派』批判記事で、米国に譲歩する姿勢を示している習近平派閥に圧力を与えている」と分析した。
習近平国家主席は7日、ロシアのサンクトペテルブルクで開催された経済フォーラムで演説を行い、トランプ米大統領を「友人」と呼び、米中貿易・経済関係の重要さを強調した。
李恒青氏は、習氏が米国に交渉を続ける意欲をアピールしたとの見方を示した。
また、党内序列4位の汪洋・副首相は5月末、訪中した台湾の政党、「新党」代表団と会談した。この際、汪副首相は米中貿易戦について、貿易戦という外部からの力を借りて、「改革開放を加速させる」メリットがあると述べた。
習氏と汪氏の発言の背景には、貿易戦の影響で中国経済の悪化が深刻さを増していることが挙げられる。中国国家統計局が5月31日に発表した主要経済指標、5月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.4で、景況拡大と悪化の節目である50を割り込んだ。ロイター通信やブルームバーグは、今回のPMI指標は市場の事前予測を大幅に下回ったと指摘した。
李氏は、現在、国内外情勢が緊迫している中、党内の習近平氏に対する不満が高まっており、習氏が大きな圧力に直面しているとの見方を示した。「習近平氏への求心力が低下しているため、今年、党の重要会議である四中全会(共産党第19期中央委員会第4回全体会議)の開催は実現できないだろう」
匿名希望の官二代(中国指導部高官の子弟)はこのほど大紀元に対して、人民日報の一貫しない論調は、党内の激しい派閥闘争で、最高指導部が貿易戦の打開策を全く見出せないでいる現状を露呈したと述べた。
同氏が得た情報では、習近平氏が現在の局面に優柔不断になっているという。「習近平氏自身が失脚させられる可能性すらある」
この高官子弟は、党内序列5位の王滬寧氏が、米中貿易戦をめぐる中国側の対応や国内での宣伝活動、巨大経済圏構想「一帯一路」などの目玉政策を主導したとした。
今後の米中貿易戦の見通しについて、李恒青氏は、米中の貿易交渉が合意するのは難しいとみている。党内の一部の幹部は、強制技術移転、構造改革、合意執行メカニズムなどに関する米側の要求に歩み寄ることが、「主権を失い国を恥辱にさらす」行為だと強く反発しているからだ。
トランプ米大統領は10日、米CNBCの取材に対して、6月末に大阪で開催される20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で習近平国家主席と貿易合意ができなければ、3000億ドル相当の中国製品に対して新たな関税を課すと表明した。
ロイター通信によると、中国外務省は10日、米中首脳会談の開催に明言を避けた。
(翻訳編集・張哲)