大物経営者が相次ぎ要職を退任 民営企業に牙を剥いた中国共産党
中国IT最大手の騰訊控股(テンセント・ホールディングス)創業者の馬化騰氏と、パソコン最大手の聯想集団(レノボ・グループ)の創業者である柳伝志氏がこのほど、関連会社の要職から退いたと報じられた。アリババ集団の創業者馬雲(ジャック・マー)氏が9月10日、同社の会長を退任したばかりだ。
大物経営者に起きた不穏な動きが憶測を呼んでいる。中国共産党政権が「公私合営」という名のもとで民営企業の国営化を進める動きを見せているためだ。
浙江省杭州市政府はこのほど、市内にあるアリババ集団などの大企業に100人の幹部を配置し、民営企業への統制を強化している。
また、インターネットでは、山西省は民営企業の財務業務を当局からの職員が担当する取り組みを、一部の地区で実験的に行っているとの情報が出ている。
相次ぐ退陣
中国紙・新京報19日付によると、馬化騰氏はテンセント傘下の「騰訊征信」(テンセント・クレジット)の法定代表と執行取締役を退任した。騰訊征信は2015年3月17日設立。同社は個人の信用力をスコアリングする企業だ。ユーザーに関して過去の公共料金の支払い状況などの個人情報をアプリで収集し、これを基に信用スコアを算出する。同社は2018年1月末に同サービスの公開テストを全国で開始した。
報道によると、テンセント側は今回の人事異動は社内業務の必要性に応じたもので、会社の経営状況とは関係していないとの声明を出した。
また、中国メディア「21世紀経済報道」などは23日、レノボ・グループの創業者で会長の柳伝志氏が、関連企業の聯想控股(天津)有限公司の法定代表と取締役を退任したと報じた。
国内の報道は、柳氏と関わる企業が25社あるとした。同氏は17社の法定代表と、7社の株主、8社の上層幹部をそれぞれ務めている。しかし、企業情報を公開するウェブサイト「啓信宝」では、同氏が法定代表を務める企業のうち、聯想控股股份有限公司(レノボ・ホールディングス)を除き、他の企業に関して「市外に移転」または「登記抹消」となっているという。
聯想控股(天津)有限公司は2011年11月設立。レノボ・ホールディングスと深セン市にある瑞龍和実業有限公司がそれぞれ50%の株式を持つ。
レノボ・ホールディングスは同時に、レノボ・グループの筆頭株主で親会社である。
中国国内金融情報を提供する「Wind数据」によれば、2018年6月30日の時点で、中国科学院控股有限公司、北京聯持志遠管理諮詢センター、中国泛海控股集団有限公司、北京聯恒永信投資センターは、柳伝志氏が、レノボ・ホールディングスの5大株主で、同社の76.81%株式を保有する。中国科学院控股有限公司は、中国当局直属の最高研究機関である中国科学院が100%出資する国有独資企業だ。
民間企業への介入を強化
中国当局は民間企業への介入を強化する動きを見せている。
杭州市政府は20日、幹部100人を「政府事務代表」として、市内にある電子商取引最大手のアリババ集団、自動車メーカーの吉利汽車、監視カメラメーカーの海康威視数字技術(ハイクビジョン)など大手100社あまりに派遣した。これによると、杭州市政府が「新製造業計劃」に取り組んでおり、民営企業に政府幹部を派遣する意図は「企業のために、各種の政府関連の事柄を調整する」ことにあるとした。
昨年から、中国政府関係者は「民営企業退場論」や「公私合営」を唱えるようになり、中国当局が民営企業を飲み込むための地ならしと見なされている。
2018年9月11日に「金融通」と自称する呉小平氏は中国メディアに掲載された記事で、「中国では民営経済はすでに公有制経済の発展を手助けするという役割を終えており、徐々に退場すべきだ」と述べた。呉氏は、「国有経済と融合した、より大規模な公私混合制経済が今後の経済社会の主役になるだろう」と主張した。
同じ日に、人力資源・社会保障部の邱小平副部長は、「全国民営企業民主管理会議」で、民営企業が従業員の主体的地位を堅持し、従業員にも企業管理に参加してもらい、企業発展の成果を共有してもらうべきであり、これを実現するために、共産党の指導の強化が必要であると強調した。この発言が、民営企業の国有化への第一歩となった「公私合営」を進めようとするシグナルであると、解釈された。
中国の国政助言機関である全国政治協商会議の袁愛平委員(湖南省選出)は邱小平副部長の発言の翌日、同省の大手企業の社長十数人から「今後、国は民営企業に退場を迫ると政策を転換させたのか」と問い合わせが相次いだと話した。「企業家らは恐怖に陥った」
当局はその後、民営企業の役割を高く評価し、今後も支援すると民営企業退場論を否定した。しかし、民営企業に党支部の設置を要求するなど支配を強めている。
近年、反腐敗運動で民営企業の企業家は相次ぎ摘発された。銀行や保険会社、不動産開発業者などを傘下に置く持ち株会社、明天グループの肖建華会長は2015年1月、香港から本土へ連行された。英紙フィナンシャル・タイムズ2018年の報道によると、拘束された後、400億元(約6600億円)の個人資産を持つ同会長は当局の要求に従い、資産の売却を進めている。
安邦保険集団元会長の呉小暉氏は2017年6月に拘束され、その後の裁判で詐欺と職権乱用の罪で懲役18年の実刑判決を言い渡された。当局は呉氏の個人資産105億元(約1800億円)を没収し、安邦保険集団を政府の管理下に置いた。
公私合営は50年代にも実施されていた。「社会主義改造」を推進する当局は12万社の企業に公私合営を迫った。これを拒否した企業家は死刑を言い渡されたり、いわれのない罪名で投獄されたりした。将来を悲観し、自殺を図った人が後を絶たない。1966年、これらの企業は全部「国有化」された。
米中貿易戦争で中国経済が悪化するなか、この局面を乗り越えるために中国当局は「計画経済」に戻るための布陣に着手した、という情報が出ている。
一方、米ケイトー研究所の客員研究員である夏業良氏は、当局が資金の海外流出と大規模な失業など、これから起こりうるリスクを防ぐため、公私合営を進めていると分析した。「しかし、これは恐ろしいことだ。今後、民営企業、外資企業も共産党の支配下に置かれることになる」
無事に身を引いた民営企業の経営者はむしろ幸運かもしれない。
(大紀元日本ウェブ編集部)