北朝鮮としては非核化交渉を中止にすると都合が良い。何故なら瀬戸際外交を最初からやり直すことができる。これは非核化交渉をゼロからのやり直し。金正日氏から続く瀬戸際外交を続けることができる (Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images)
上岡龍次コラム

北朝鮮のSLBM発射は瀬戸際外交

北朝鮮は10月3日、2日朝に新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星3」の実験が成功したと発表した。同時に発射時と思われる画像を公開、隠すこと無く世界に北朝鮮の武威を示した。

何故アメリカは怒らないのか

北朝鮮が瀬戸際外交を採用していることは知られている。瀬戸際外交とは緊張を高めることによって、相手国に譲歩を迫る交渉手法。北朝鮮の瀬戸際外交は先代の金正日氏から開始され、今の金正恩氏も継承している。これはトランプ大統領と北朝鮮というだけの問題ではなく。金正日氏と各時期のアメリカ大統領も対応に追われた。

北朝鮮は今回もSLBM発射の成功をアピールすることによって、米から「実験の中止」の見返りに経済制裁の解除という譲歩を引き出そうとしている。5日にスウェーデンの首都ストックホルムで米朝実務協議が行われる予定。

アメリカから見てもこのSLBM発射は北朝鮮の瀬戸際外交だと理解しているだろう。

アメリカが北朝鮮と戦争することは容易。金正日氏の瀬戸際外交に対応した過去のアメリカ大統領たちは勝てる戦争でも回避した。北朝鮮と戦争しない理由は国益にならないからだ。しかも北朝鮮を支援する中国とロシアが戦争に干渉するだろう。

中国とロシアから見ると、アメリカと北朝鮮の戦争は長期化することが好ましい。だから中国とロシアは、北朝鮮に物資を供給して戦争の長期化を行う。これが予測されるから、過去のアメリカ大統領は北朝鮮との戦争を回避してきた。これはトランプ大統領も同じ。

北朝鮮のSLBMは本当に脅威か

北朝鮮はSLBMを発射したと公言したが、アメリカは潜水艦からSLBMを発射したことを確認していない。米統合参謀本部のライダー報道官は3日の記者会見で「我々は潜水艦から発射されたという兆候を得ておらず、海に設置された構造物から発射された可能性がある」と述べ、否定的な見方を示している。

海外に基地を持っていない北朝鮮のSLBM実験が成功すれば、アメリカにとって軍事的な脅威になるのは間違いない。北朝鮮の潜水艦が日米の対潜哨戒網を逃れて太平洋に進出できれば、グアム・ハワイも攻撃目標になる。だがアメリカはSLBMの発射だけでは動揺していない。これはアメリカ軍が軍事の基本から見ているからだろう。そこで潜水艦の基本的な運用から説明したい。

1:基地で補給と整備

2:戦域に移動

3:戦域で活動

4:基地に帰還

潜水艦は戦域に24時間体制で活動することで戦力として機能する。それには基本的に最低4隻の潜水艦が必要。損害を想定すれば5隻の潜水艦で実戦部隊になる。これはアメリカ軍も使う潜水艦の基本的な運用の考え方だ。

アメリカの余裕の理由   

トランプ大統領がSLBM発射に怒らないのは、アメリカ海軍から運用の基本から説明を受けたことが原因ではないか。SLBM発射は確実。しかしSLBMを発射できる潜水艦は未確認。仮に存在したとしても1隻。これでは実戦部隊となりえず、単なる実験部隊にすぎない。

アメリカへの軍事的脅威にはならない以上、北朝鮮との実務協議を中止にする必要は無い。それよりも交渉を行い、北朝鮮の思惑を潰す方が有益になる。

交渉継続はアメリカに有利

北朝鮮としては非核化交渉を中止にすると都合が良い。何故なら瀬戸際外交を最初からやり直すことができる。これは非核化交渉をゼロからのやり直し。金正日氏から続く瀬戸際外交を続けることができる。

だが非核化交渉が継続すれば交渉の終わりへ近づく。アメリカが非核化交渉を続けると、北朝鮮は完全非核化か段階的非核化を強いられる。悪くても段階的非核化になるから、北朝鮮の交渉継続は不利になるのだ。

 


執筆者:上岡 龍次(Ryuji Ueoka)

プロフィール:戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。

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