2015年4月、南極探査から上海港へ戻った中国船員たち(Getty Images)

北極政策をロードマップに 進む中国の南極政策

世界一の淡水資源とエネルギー資源を保有するとされる南極大陸。60年前に締結した南極条約により、同地での紛争は抑制され、国際協力が促されてきた。しかし、野心的な中国共産党政権は、既存の国際枠組みを飛び越えて、南極における地政学的な影響を強めようとしている。

ブルッキングス研究所元研修員ダニエル・バイマン氏はこのほど、中国共産党政権による南極戦略について分析した。同氏によると、中国は資源、地政学、漁業、交通、観光といったあらゆるカテゴリで影響力を強めている。5番目となる新基地を建設し、新たな砕氷船を建造し、採掘や燃料探索における南極研究費を増やし、観光産業を盛り上げようとしている。

現在、中国共産党政府は2018年1月に北極政策を発表したが、南極の長期戦略は公表していない。しかし、バイマン氏によると、世界でも5番目に大きい大陸である北極には、商業的価値(航路、漁業、資源開発)、エネルギーの安全保障(石油やガスの埋蔵量、淡水、生物資源)など多くの潜在的価値が眠っており、中国共産党政権が自由主義国との戦いにおいて、外交政策上、この大陸の政策を考えない理由はないと分析する。

1959年に署名された南極条約は、当時、調査研究に国際協力体制のあった米国、日本、英国、フランス、ソビエト連邦、など12カ国が採択した。平和目的の利用(軍事基地の建設、軍事演習の実施等の禁止)および領土権主張の凍結が含まれる。しかし、2048年、同条約のなかの「環境保護に関する議定書」が失効する。南極の豊富な資源をめぐって、野心の強い国が、新・議定書の制定をめぐって意見を強めるとみられる。

オーストラリアの戦略政策研究所が2017年8月に発表した報告書によると、中国当局は過去10年間、南極に莫大な資金を投じており、「宣言していない軍事活動と鉱物探査」の動きを拡大させている。1989年マドリッド協定議定書にある「南極鉱物資源活動規制条約」では、南極における鉱物探査や採掘を禁じている。しかし、同報告書によると、署名国である中国政府は公表していない鉱山調査を続けている。

中国は2014年、南極大陸の42%の領有権を主張するオーストラリアとの間で、船舶と航空機に燃料を供給するという5年間の協定に署名した。この合意は「(地域への)より容易なアクセスを確保するのに役立つ」という。最近では、極地プロジェクトを促進するために、南米チリと交渉を開始した。

バイマン氏によると、中国は既存の南極条約の枠を飛び越えた2国間取引に注力している。すでに北極で、ロシア、ノルウェー、アイスランド、グリーンランド周辺の主要港に投資し、支援したりしている。2国間関係を強化することで、将来の南極条約を制定する際、相手国の決定への介入が可能になるという。中国は「北極圏に近い国」であるとして、2013年に北極評議会にオブザーバー枠を得て、政策の提言に加わった。

バイマン氏は、中国が実証している北極政策は、将来の南極政策を推し量るためのロードマップとして機能していると見ている。中国政策と北極問題に詳しいアン・マリー・ブレディ氏は、著書『China as a Polar Great Power(中国は北極の強い力に)』(2017)のなかで、中国にとって北極および南極は「継続的な経済成長において重要な資源の宝庫と見なしている」と書いた。

観光においても中国人訪問者は著しく増加している。2018年5月北京青年報によると、南極旅行は「大ブーム」を迎え年間5000人が観光に訪れ、米国に次ぎ2位の多さとなった。過去8年間で40倍に増加したという。南極は年間で3万人が観光目的の訪問者を数える。

いっぽう米国は、南極政策には目立った動きはない。老朽化した3つの基地、故障した砕氷船、更新されていない通信技術が放置されている。2012年の全米科学財団の報告書は、米国南極プログラムは「ひどく」修復が必要であり、「放置された時間が長ければ長いほど、修復には費用がかかる」と指摘した。

バイマン氏は、米国が南極条約締結国とともに、北極問題の優先順位をあげることを早期に検討するよう促している。現在、南極条約で定めた「平和利用」「領土争議の凍結」に違反した場合、各国には何ら罰則は設けていない。北極の周辺国における中国の影響力の深化から、条約違反の場合は、制裁を科すなどを取り決めるべきだとした。

(翻訳編集・佐渡道世)

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