生命の不思議 僅かな脳組織でも正常に生活できる
仕事で上司から「もっと頭使えよ」と言われたことはありませんか? 徹夜で一生懸命つくったプレゼン資料を上司に提出してこんな事を言われたら腹を立てる人もいるでしょう。「もっと頭がよかったらなあ」と思う人もいるかもしれません。しかし世の中には脳に大きな欠損があるにもかかわらず、身体に障害がほとんど見られず、正常に生活している人がいるようです。
イギリスに住むシャロン・パーカー(Sharon Parker、女性)さんは、看護師として働く3児の母です。彼女の検査結果を見るような機会でもなければ、彼女の脳に大きな異常があるとは誰も思わない程、シャロンさんはごく普通に生活していました。しかし、彼女は重度の水頭症患者であり、脳組織は健常者の10~15%しか残っていませんでした。
水頭症(すいとうしょう)とは、脳脊髄液の産生、循環、吸収などいずれかの異常によって髄液が頭蓋腔内に貯まり、脳室が正常より大きくなる病気です。脳脊髄液による脳の圧迫程度によって、脳機能が影響を受ける度合いも変わります。
常識で考えると、シャロンさんの脳の圧迫状況は彼女に重度の脳障害を引き起こしていても、なんら不思議ではない状態にありました。しかし、イギリスの医学系ウェブサイト(My Multiple Sclerosis)に2015年に掲載された彼女に対する調査報告では、彼女の知能指数は113に達しており、健常者の知能指数平均値90~109よりも高かったというのです。
シャロンさんは自分の能力に関して、「私は数字を記憶することが大変苦手です。電話番号は覚えられません」と言います。しかし、彼女と一緒に15年間生活してきた夫のデイブさんによると、シャロンさんは整理整頓の面ではあまり気を使わないが、それ以外では実際に生活する上で何の不都合もありませんでした。
『生物学の理論(Biological Theory)』に掲載されたカナダのクイーンズ大学生物学研究者ドナルド(Donald Forsdyke)博士による研究報告では、次のように述べています。
「水頭症の症例の中には、脳の組織が非常に少ない重度の患者でも正常な知能を保っているケースが見られる。脳の体積と記憶力や知力の間には必然的な関係は存在しておらず、故に、脳に依存しない『体外情報保存システム』が存在する可能性も考えられる。脳に関して深く探究していけば、やがて神経科学の範疇を超えて哲学の方面から探求しなければならなくなるだろう」。
(翻訳編集・金谷、大道)