武漢海鮮市場から20キロの位置にある、高リスク病原体を取り扱うレベル4研究所から、漏れ出た可能性があるという。写真は1月29日、新型コロナウイルスの解析を行うフランスの研究施設、参考写真(GettyImages)

新型コロナウイルス、初期患者の3割は「海鮮市場に行っていない」 医学誌が指摘

中国湖北省武漢で広がり、日本など海外でも感染者が出ている新型コロナウイルス。中国当局は、武漢の海鮮市場が発生源とみなしている。しかし国際的な医学誌「ランセット」に1月24日発表された論文では、12月初期に確認された患者の一部は、市場を訪れていないという。また、政府の発表より早い段階から人から人への感染があった可能性があると指摘した。

報告書の著者である中国の研究者および武漢の病院の医師は12月、武漢新型コロナウイルス(2019-nCoV)と最初に診断された41人の患者のカルテ、看護記録、胸部X線検査結果などを分析した。

報告によると、12月1日に最初の患者が確認された。中国当局は同月末に新型コロナウイルスをWHOに報告した。このため、当局の「報告が数週間遅れている」と指摘している。しかも、この患者は発源地とされる華南海鮮市場に行ったことがなく、別の患者との接触もない。どこで感染したのかがわかっていない。

41人の最初の患者のうち27人が華南海鮮市場を訪れ、残り14人は、市場を訪れていないという。

米ジョージタウン大学メディカルセンターの医学感染症非常勤教授のダニエル・R・ルシー氏は米メディアVOXの取材で、新型コロナウイルスは10月頃から出現した可能性があり、複数の感染源が存在する可能性を指摘した。

1月24日に「ランセット」系列誌で発表された別の研究グループによる研究は、1月10日に深セン在住の一家が2019-nCoVに感染した例を取り上げた。そのうち5人が直近で武漢を訪れたが、海鮮市場に入っておらず、武漢を訪れていない別の家族も感染した。中国政府が人から人への感染を発表したのは、1月20日だった。

中国当局は、死亡した2019-nCoV罹患者はすべて高齢者、疾患を患う人だとした。しかし「ランセット」の報告では、41人の最初の患者の大半が64歳未満で、感染前に糖尿病、高血圧など基礎疾患を患っていたのは13人のみ、他は健康だった。肺炎は100%発症し、合併症で急性心疾患が起きた例がある。

中国当局の公表データと、実際の専門家の報告には誤差がある。これについて、英ロンドン保健衛生および熱帯医学学校(London School of Hygiene and Tropical Medicine)教授で、SARS流行に対応した経験を持つデイビッド・ヘイマン(David Heymann)氏は、中国当局者がすべてのデータを収集していない可能性が高いと指摘した。

米ジョージタウン大学グローバル公衆衛生および安全保障センター(Global Health Science and Security at Georgetown University)の研究者であるアレクサンドラ・フェラン(Alexandra Phelan)氏は、共産党の厳格な官僚制度が情報の公開を遅らせたと考えている。

湖北省の地方議会にあたる両会が、1月12~17日まで開催されたが、会期中、「密接に接触した者同士による新しい感染者はゼロ」と報告されていた。閉幕後は感染者が2倍、3倍に増した。

「ランセット」の初期患者の分析報告によれば、1月中旬だけ、人から人への感染がゼロとは考えにくい。

武漢P4研究所から漏れ出したとの報道

中国国内メディアは、野生動物を取引していた海鮮市場を感染源である可能性が高いと報道している。しかし、一部の専門家は、市場から20キロメートル南に位置する、武漢のウイルス研究所から漏れ出した可能性があると指摘している。

中国科学院傘下の国家生物安全研究所は2018年初め、武漢に設置された。「武漢ウイルスP4研究所」と呼ばれ、中国で最も先進の病原体やウイルスの研究機関とされる。このラボでは、SARSやエボラ出血熱など危険な病原体を研究している。

2018年、中国中央テレビ(CCTV)は「武漢ウイルス研究所が新しいコロナウイルスを発見した」と報道している。それによれば、コウモリに由来し、2017年に広東省で豚の大量死を引き起こしたコロナウイルスだという。当時は、豚と密接に接触していた養豚場従業員から血液検査を行ったが、感染は見られなかった。このため、野生動物への監視は続けるものの、人へは当面感染しないと判断されたという。

武漢ラボの研究者は2020年1月25日、2018年にブタから発見されたコロナウイルスは、今回流行している新型ウイルス「2019-nCoV」とは「似ているが、分類学上異なる」と中国官製メディアの取材に答えている。

武漢の研究所からのウイルスの漏えいについて、国際的に有名な学術誌「ネイチャー」は2017年、その可能性を指摘している。北京のウイルス研究所では、これまでSARSウイルスの漏えいを複数回発生させている。このため、その管理能力から、中国が致命的なウイルスを再度漏えいさせないとする保証はないとした。

新華社通信25日付によると、中国疾病予防抑制センターのウイルス病予防抑制所は、武漢華南海鮮市場の環境サンプル585点を検査した。その結果、33点に新型コロナウイルスの核酸が含まれていることを発見した。

オーストラリアの防衛アナリスト、マルコム・デイビス博士は、新型ウイルスが武漢の研究施設から漏えいしたとの疑惑は、確信できる証拠はないとしながらも、複数の接点は関心を向けられるものだとした。

世界保健機関(WHO)は27日、中国の新型コロナウイルスが世界に及ぼすリスクを「中程度」と評価したことは誤りで、「高い」に修正した。

(翻訳編集・佐渡道世)

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