3月14日、湖北省武漢を離れる南アフリカ人(GettyImages)

広州で露骨なアフリカ人差別 中国関係に亀裂も

中国当局は湖北省武漢市で感染が拡大した中共ウイルス(新型コロナウイルス)に対応するため、外国人の入国・国境管理を強化している。 最近、広州当局がアフリカ系住民に対して人種差別的な対応をしていたとして、アフリカ諸国の政府などが問題視している。

非人道的な扱い

10年以上中国に住んでいるという東アフリカ・ブルンジ出身のティエリー・ンダイゲンゲスレ(Thierry Ndayigengesere )さんは米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対して、広東省当局がアフリカ人に検疫検査を強要したと語った。

「警察が来て、14日間隔離すると言った。 外国への渡航歴はなく、アフリカ人という理由だけで隔離され検査を受けなければならない。中国政府がなぜアフリカ人に対してそのような態度をとるのかを知りたい」。強制的に隔離しても、当局は水や食料を提供しない場合もあるという。

これに加えて、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアでは、広州のアフリカ人がアパートやホテルから追い出され、マスクをしたまま路上に寝ている写真や動画が多く発信された。 多くのお店やレストランも、アフリカ人の立ち入りを断っているという。

これらの写真や動画はソーシャルメディア上で広く拡散され、多くのアフリカ人を怒らせた。中国でのこの非人道的な扱いは、中国人によるアフリカ人への人種差別だと抗議の声が上がった。

状況の深刻さと住民の怒りを認識したアフリカ諸国の政府関係者は、中国大使を外務省に呼び出して抗議した。在中国アフリカ大使は王毅中国外相に共同書簡を送り「外国人に対する強制的な実験や隔離、その他の非人道的な扱い」を即時停止するよう要求した。

中国の歴史学者で評論家の洪振快氏はVOAの取材に対して、中国のソーシャルメディア上では、アフリカ人が法律に違反して隔離を拒否したり、感染確定後に医療従事者に噛み付いたり、といった動画が広がっており、双方の感情に溝が生じているとした。

中国では、国内では防疫が完全に成功し、新規の感染例は海外から持ち込まれたものと宣伝されている。広州政府によると、在住アフリカ人4553人のうち確定症例は1111人で、そのうち19人はエチオピアの首都アディスアベバから入国したと説明している。

洪氏は、アフリカ人に対する不公平な扱いは、防疫に対する過剰な反応のひとつに過ぎないとし、差別であるとの批判を否定した。

いっぽう、中国のネットユーザーたちは、微博などのSNSで黒人への差別的な表現を書き込んでいる。

米シンクタンク・スティムソンセンターの中国プログラム代表であり、中国アフリカ関係の研究者・孫韵氏によれば、中国の偏見やアフリカ人に対する差別は長年にわたり存在しているという。孫氏によると、「外国人がウイルスを輸入している」との観念から、大家がアパートからアフリカ人を追い出したり、ホテルやレストラン、小売店もアフリカ人を入れさせないという露骨な差別行為を行っている。

中国当局は、公式にはアフリカ人の差別の発生を否定している。中国外務省の趙立堅報道官は12日の記者会見で、広州では防疫対策は、入国者に対して、国籍や人種、性別に関係なく実施されると述べた。また、広州市の温国輝市長は同日の記者会見で、広州市は「平等待遇」の原則に基づき、中国人と外国人に区別なく予防・管理措置を講じていると述べた。

しかし、孫韵氏は、アフリカ人に対する待遇は不公平さがあると考えている。「これは中共ウイルスの発生と関係なく、中国で根強く存在している」

孫氏は、病院で看護師に噛みついたというナイジェリア人の男性は、治療は必要だが支払いの費用を用意していなかったため、治療を断ったが、病院側に呼び止められたので強硬手段に出たのではないかと推測している。

中国政府の規定によると、新型コロナウイルスの治療を受ける外国人は、自費での治療が必要となる。 財政部によると、中国での新規コロナウイルス治療にかかる一人当たりの費用は1万8000元(約27万円)。

また、入国する外国人には14日間の検疫が義務付けられているが、これらも自費で負担する。 広州では、1日の平均隔離により発生する費用は280~350元だ。 多くのアフリカ人にとって高額になる。

孫氏によれば、これらの思慮に欠けた政策は、結局は紛争の激化につながっていると指摘した。また、中国現地当局の配慮のなさは、事前の説明不足を含み、混乱と疑惑を招いている。

ある広州在住のアフリカ人は、「中国の科学者がアフリカ人に対して治験している」とのソーシャルメディアの情報を信じていた。このため、警察を伴った中国の医療関係者がアフリカ人が住む家を訪れ、感染確認テストを求めると、アフリカ人の最初の反応は「治験ではなくウイルスを注射するつもりだろう」と抵抗したという。

ナイジェリア外相は最近、メディアのインタビューで、広州当局が事前に在広州アフリカ諸国の領事館と交流・連絡を取っていれば、相互の疑惑や現在の両国間の関係悪化はなかっただろうと述べた。

アフリカ人差別を理解していない中国人

前出の洪振快氏によれば、中国人にとって、このアフリカ人に対する差別への問題意識は低いという。なぜなら、中国人は政府がアフリカ系を含む外国人を優遇し、中国国民は我慢を強いられていると考えているからだという。

孫雲氏もこの考えに同意している。「中国人は、普段からアフリカ人に沢山補助して優遇しているのに、国際社会はなぜこんな些末なことで大々的に中国を非難するのか、というような心境だろう。相互のコミュニケーションも取れていないのが、ネットユーザーの(一部冗句的な表現を使った)意見を見ると分かる」と語った。

また中国人は、中国政府によるアフリカへの援助や投資を肯定的にみており、アフリカ側が「搾取だ」との不満を訴えていることにも理解は低いとした。

中国とアフリカの関係を研究する「中国アフリカプロジェクト」共同創設者エリック・オランダ氏は、広州政府によるアフリカ人への冷たい態度は、相互の亀裂を生み、中国当局の対アフリカ広報活動が失敗する可能性があるという。

中国官製メディアによると、王毅外相は4月13日、アフリカ連合委員会のファキ委員長との電話で、中国とアフリカは包括的な戦略的パートナーであり、「特定の勢力による分裂を誘発」する動きによって中国とアフリカの友好関係が邪魔されることはないと述べた。

王外相が「分裂を誘発する」と例えたのは、米政府報道官の発言を暗に批判している。米国のティボール・ナージュ国務次官補(アフリカ担当)は同日のツイートで、「広州のビデオは衝撃的だ」とし、中国におけるアフリカ人に対する虐待と差別の停止を中国当局に求めた。

米国務省報道官モーガン・オータガス氏はこのツイートに呼応して「広州における外国人差別は恥知らずなことだ。中国当局は、中国に住み、勉強しているアフリカ人たちを虐待するのをやめるべきだ。行動は言葉よりも雄弁だ」と書いた。

(翻訳編集・佐渡道世)

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