【紀元曙光】2020年4月21日

2011年4月21日、女優の田中好子さんが闘病の末、死去した。享年55歳。

▼キャンディーズのスーちゃん、と呼んだほうが、アイドル時代を知っている人にとっては懐かしさも増すだろう。小欄の筆者は、ファンというわけではないが、やはり今でもキャンディーズの歌を覚えているほど、自然にその時代のなかにいた。

▼スーちゃん、いや田中好子さんが女優として活躍した数々の作品も忘れ難い。今村昌平監督の映画『黒い雨』では、原爆症を発する矢須子の役で日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞に輝くなど、高く評価された。

▼筆者が思い出すのは、NHKドラマ『大地の子』で、満州の奥地から、家族を守って地獄の逃避行をする若妻タキエの役で見せた迫真の演技である。歩けなくなった義父を、「うぉー」と獣のような声を出して背負い上げ、よろよろと歩き出すタキエ。背中の義父が「止めろ。おまえも死んでしまうぞ」。

▼田中好子さんが亡くなる前月11日に、東日本大震災が発生している。病床にあった彼女は、癌があちこちに転移して、余命わずかであることを知り、声の出せるうちにと録音メッセージを残した。3月29日である。

▼「私も一生懸命病気と闘ってきましたが、もしかすると負けてしまうかも知れません。でも、その時は、必ず天国で被災された方々のお役に立ちたいと思います」。人間の生命には、誰しも限りがある。ただ、その有限の時間のなかで、他者に無限の愛を注いだ人は、必ず人に喜ばれ、人々の記憶に残る。自粛の日々、今夜はキャンディーズの歌を静かに聴こうかと思う。

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