【紀元曙光】2020年7月13日

(前稿より続く)日本の先賢が残した名文に、いま少し、おつきあい願いたい。

▼先述の『方丈記』の一節。「また治承四年四月の頃、中御門京極のほどより、大きなる辻風起こりて、六条わたりまで吹けることはべりき。三四町を吹きまくる間にこもれる家ども、大きなるも、小さきも、一つとして破れざるはなし。(中略)家の損亡せるのみにあらず。これをとりつくろふ間に、身をそこなひ、片輪付ける人、数も知れず」。

▼治承4年というと1180年にあたる。その年の4月、京都に突然、大小の建物をなぎ倒す巨大竜巻が起こった。吹き飛ばされそうになった家を押さえようとして、かえって大けがを負い、身体が不自由になった人は数知れないほどだった。鴨長明は、その後段に、こう記す。「ただことにあらず。さるべきもののさとしかなどと、うたがひはべりし」。

▼京の町の人々は、「これは尋常なことではない。何かの(神仏の)お告げか、などとうたがって恐れた」という。予想をはるかに超えた自然災害に遭って、家を失い、途方に暮れる840年前の日本人が、ここにいる。神仏のお告げかと恐れる庶民には、誠に気の毒だが、ここでの政治責任は、為政者たる平清盛にあるだろう。

▼清盛は、この2か月後、福原遷都を強行する。瀬戸内海に日宋貿易の夢を描いた清盛は、なんと都を、京都から現在の神戸へ遷せと命じたのだ。あまりに無謀な話である。その結果、もとの京都は荒れ果て、新しい福原の都は簡単にはできず、人々は困窮した。

▼同じ治承4年の8月。源頼朝が伊豆で挙兵したことを、『方丈記』は語っていない。(次稿へ続く)

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