【紀元曙光】2020年7月30日

五月雨を集めて早し最上川。松尾芭蕉『奥の細道』の名句である。

▼五月雨(さみだれ)とは、今でいう6月ごろの梅雨のこと。「五月雨をここへ集めたかのように、水を豊かにたたえ、速く流れる最上川であることよ」。最上川を舟下りする芭蕉が「水みなぎって舟あやうし」と詠ったように、江戸から来た旅人をひやりとさせる急流は、夏の山々に映えて、さぞ美しかったに違いない。

▼そんな芭蕉が目にした風景のままであったら、どんなに良かっただろう。28日から29日朝にかけての豪雨で最上川が氾濫し、周囲の住宅などに深刻な浸水被害をもたらした。先日の熊本県の球磨川と同じく、「100年に一度」の流域雨量指数だったという。芭蕉も訪れた大石田町などで多くの家屋が浸水した。

▼山形は、昔も今も、日本有数の米どころである。山形産の米や紅は、多くは日本海航路で上方へ運ばれた。芭蕉がここを訪れたのは旧暦6月の初めなので、稲の収穫期ではないが、「これに稲つみたるをやいな舟といふならし」と稲を運ぶ稲舟(いなふね)について書いている。長さ五間、横幅2尺5寸というから、柳葉のように細長い船だったらしい。

▼米づくりをする専業農家は、泥水に没した田を見て、「こんなことは、今までになかった」と困惑を隠せない。都会の人間としては、被災された方々のお体を案じるばかりである。

▼原稿に向かう筆者の頭に、ふと想像上の光景が浮かんだ。最上川を下った稲舟を上流部に戻すため、太い綱を岸から引いて進む、力強い人々の姿である。「日本全国、元気を出そう」の意味らしい。

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