人類に大きな幸福をもたらした、と言える発明品は何であろうか。
▼今日ならばスマホやパソコンがそれに相当するだろうか。ただ、この二つは、使い方によっては人間を不幸にもする。地下鉄の座席にすわると、目の前に並ぶ7人の乗客全員がスマホを操作していた。スマホを持たない筆者には、不思議な光景に思われる。
▼そんなことは、よい。要は、便利すぎる機器のなかから飛び出てくる無量無数の情報が、ときに有害でもあるという側面を使用者が弁えていることだろう。不便であることの重要性を、人はどこかで担保しておくべきではないかと危惧するが、便利なモノが売れる世の中である以上、致し方ない。
▼工業製品に限定して考えれば「白熱電球」と「足踏みミシン」を発明し実用化したことは、人類の大きな幸福であったと言ってよい。夜でも本を読めることが、人間の思索をどれだけ深くしたか知れない。足踏みミシンは、今でも電気事情のわるい発展途上国などで大活躍しているそうだが、これを使って衣服を縫うとき、人は他者への優しさそのものになれるのだ。
▼1880年1月27日、トーマス・エジソンが白熱電球の特許を取得した。エジソンという人は、子ども向けの伝記でも知られているように「発明王」ではあったが、やはり奇人の類に入るだろう。製作中の蓄音機を前に肩肘をつき、考えあぐねるポーズの写真は有名だが、そうして自分を見せる俗っぽさもあった。
▼ただ彼は夢中になることに純粋で、ガチョウの卵を抱いて孵化させようとした。そんなエジソン少年に、たまらなく会いたいと思う。
【紀元曙光】2021年1月27日
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