(Masao.M/Creative Commons)
≪医山夜話≫ (28-2)

病と性格(2)

ガンの宣告を受け、辛い思いをしているマーサに、次から次へと友人が助けにきてくれました。月曜日から土曜日まで、子供の面倒、買い物、食事、洗濯、掃除など、すべてが解決できました。かつての小さなトラブルのため、マーサに憎まれ、縁を切られた人ばかりです。最も困った時に支えてくれる友人たちの存在に、マーサは 感動しました。

 情緒不安定なイタリア人の親も、 電話口で泣いたり騒いだりすることなく、そっとマーサの家の入り口にお花や食品、愛情のこもったメッセージを、黙々と残していきました。

 マーサが本当に人の優しさを噛み締めた時、周囲の環境が一変したようです。実は、みんなの優しさは、彼女のそばにずっと存在していたのです。

 ガン治療の旅は長くて苦しいものです。医者によって治療プランが異なり、十数種類の様々な理論を聞いて、患者はとても困惑します。多くの患者はガンで死亡したのではなく、治療の過程で亡くなっています。 マーサも同様に、確信が持てず、何度も治療を諦めようとしました。

 「先生、マラソンを したことがありますか」と、マーサは突然に私に尋ねました。

 「いいえ、ありません」と私は答えました。

 「出発点では、ランナーは多くの友人、親族、声援者に励まされながら見送られ、自信と温もりに包まれて一刻も早く出発しようと思います。しかし、走り始めると孤独な闘いとなり、疲れて喉が渇いても、周囲には助けてくれる人がいません。化学療法の時期、私の髪の毛が抜け落ちたのを見ても、人々には私の通った辛さが分かりません。有毒な化学薬品が自分の細胞に入った時の辛さを思うと、力を尽くした私は時々、本当に諦めようと考えます。終点で皆さんが私を待っていて、私に最後までやり通すように望んでいると知っていても、今の一時間、一分は、一人で歯を食いしばって我慢しなければなりません」

 前よりやせて服装にもかまわなくなった彼女は、くたくたで年老いて見えます。

 「普段、どんなことを最もよく考えますか」と私は彼女に尋ねました。

 「どうして私がガンにならないといけないのですか。あまりにも不公平です」と彼女は胸のつかえをとるように口にしました。

 「で、答えは見つかりましたか」

 「私は比較的強い性格なので、神さまがこの病気を私に与えました 。普通の人はとっくに我慢できず諦めていることでしょう」

 「病は人の忍耐力によって配分されるのでしょうか」

 この問いには彼女は答えませんでした。

 「先生、昨日バスの中で、とても綺麗な女の子に会いました。特にふさふさとした長い髪は、羨ましい限りでした。私はじっと彼女を見つめていました。下車する際、彼女はそばにあった杖を手に取りました。その時初めて、彼女には足が一本しかないことに気づいたのです。神さまを恨んでいた気持ちが吹き飛びました。髪の毛が全部抜け落ちた自分の運命を憎んでいましたが、実は神さまは慈悲深いのです。 これまでたくさんの借りを作ったために、このような状態にあるのでしょうね」

 「たぶんそうでしょうね」こう答えながらも、マーサの心の底には、まだ根深い恨みがあることが私には感じられました。そして、彼女は自分の生い立ちを語り始めました。

 「母は19歳の時に第一子を産み、21歳になる前に二人目の子供を生みました。母親というよりも、我が子をおもちゃにしている大きな子供と言ったほうが適切でした。母は私たちに授乳しながら、乳児用の食べ物を口にしていました。機嫌が良い時は、母は私たちをショーウインドウに並んだおもちゃのように着飾らせました。機嫌が悪い時、子供たちは辛い目にあいました。

 私たち家族は、軍人の父の赴任先を転々としました。学校を20回から30回転校しました。数十の都市にわたり、数えきれないほど引っ越しました。朝、新しい家に越したかと思えば、午後また、母の気に入った別のところに移り住むということもしばしばありました。このため、定まった友人はできず、仲良くなったところで別れなければならず、母に対して、常に不満を抱いていました…」

 

(翻訳編集・陳櫻華)
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