<心の琴線> 天国に行くには何日かかりますか?
ある寒い日の朝、私は焼き餃子で有名な店を訪ね、餃子5個と酸辣スープを注文した。
この時間になると大勢の客はすでに帰り、店内は私一人だけが残っていた。やっと暇になった店長は餃子をお湯に入れながら、餃子を包んでいる女店員たちに話しかけた。
「正月休みを取る時は、休暇願いを出して下さいよ」
「連休を取ってもいいんですか?」 と、ある店員が尋ねた。
「うん、いいよ」
「何日くらい取ってもいいのですか」
「この店はサービス重視だから、人員は確保しなけりゃならないからね。そうだ、家が遠ければ遠いほど、休暇は長くとってもいいということにしよう」
店長は公平だった。
「店長、私は台中に住んでいますが、何日取れますか?」
「2日あげるよ」
「私は台北に住んでいます」
「私の実家は宜蘭です」
「私は中国大陸から嫁ぎましたが…」
彼女たちの話は、真と嘘が半々あるように聞こえた。
「店長、天国に行くには何日かかりますか?」
その時、部屋の隅に座っている10歳あまりの小さい女の子が尋ねた。女の子の両目は赤くなっている。
店の中は一瞬静まり返った。この女の子は、学費を稼ぐためにアルバイトに来ているのだった。どう答えればよいのか分からず、店長は、なぜこのように聞くのかと質問した。
「私の父と母は半年前、自転車に乗って工場に行く途中に交通事故に遭いました。お婆さんは、両親が天国に行ったと言いました」
店長は彼女の肩を軽く叩きながらこう話した。「天国に行く切符はとても高いから、その切符を買うためには、一所懸命勉強して、たくさん貯金しないとね。もし今年の正月に何もすることがなければ、店に来て餃子を包む仕事を手伝いなさい。いつもの10倍のアルバイト料をあげるから」
奇跡を買う
怡君(いじゅん)は体を伸ばし、ベビーベッドでおくるみに包まれた弟を眺めた。すぐ隣の机の上から、薬の匂いが漂ってくる。父と母は、弟がとても重い病気にかかっていると話した。弟にいったいどんなことが起きたのか、怡君には検討もつかない。弟は、ただ泣くばかりだった。
彼女は小さい声で弟をなだめた。「泣かないで」
すると、弟は泣き止んで、目にいっぱい涙をためて彼女をじっと見つめた。
彼女は弟の小さい手を引っ張って、ふっくらとした指を見た。弟は汗びっしょりの指で助けを求めるかのように彼女の一本の指を捉えた。彼女は弟のその指を強く握り、彼を慰めた。
この時、彼女は両親が隣の部屋で何か話しているのを耳にした。彼女はまだ6歳だったが、両親が声を抑えて何かを話す時は、何か重大なことについて話しているのだと知っていた。気になった彼女は、弟に優しくキスすると、両親に気付かれないようにつま先立って部屋のドア前まで歩いて行った。
「手術費が高すぎて、私たちには払えない。最近は請求書の分さえ払えなくなっているから」と父が囁いた。
母は残念そうにつぶやいた。「そう…今は、奇跡に頼るしかないのね」
「奇跡って何だろう。どこかから持ってこられないかしら?」
彼女は「奇跡」が弟の病気を治してくれると知っていながら探しに行かない両親を不思議に思った。
彼女は自分の部屋の貯金箱から1元を取り出すと、急いで近所のスーパーマーケットへ行った。弟に奇跡を買ってあげようと思ったのだ。店に入ると、レジの前には長蛇の列ができていた。店員が笑顔で彼女に尋ねた。「お嬢ちゃん、何を探しているの?手伝いましょうか」
「奇跡を買いたいんですが…」
「えっ?何を探しているの?」
「えーと、弟の病気がとても重いので、私は奇跡を買いたいんです」
店員は困惑して、「誰かこの女の子を助けてあげてください。この子が、奇跡を買いたいと言うのだけど…」と叫んだ。
この時、洒落た身なりの一人の紳士が近づいてきた。
「あなたの弟には、どんな奇跡が必要なのかね」
「私にはよく分かりません。ただ、お父さんとお母さんは、弟の病気がとても重いから、手術を受けなければならないって」
紳士は体を曲げて、彼女を自分の近くへ呼び寄せた。
「あなたはお金をいくら持っていますか?」
「1元です」
紳士は彼女から1元を受け取り、こう話した。
「あなたが必要とする奇跡は、大体このくらいの値段でしょう。それでは、お嬢さんの弟を見に行きましょうか。もしかして、あなたの求める奇跡があるかもしれませんよ」
数カ月後、怡君はベビーベッドの上に立つ弟を見ていた。彼女の両親は、洒落た身なりの、あの洗練された紳士と話し合っている。彼は有名な神経外科医だったのだ。
怡君の母は言った。「先生、私たちはいまだに、誰が手術費を払ってくれたのか分かりません。先生は、一人の匿名のこころ優しい方が払ってくださったと言われましたが、その方はきっとたくさんのお金を使ったのでしょう」
外科医は心の中でつぶやいた。「いいえ。ただ1元と、一人の小さな女の子の信念が私を動かしました」
あなたの身の回りに困っている人がいたら、ぜひ救いの手を差し伸べてあげて下さい。自分にとっては些細なことでも、それを本当に必要としている人には奇跡となるかもしれないのです。