【ほっこり池】生きる顔つき

 水上(みずかみ)勉さんのエッセイ集『生きるということ』(講談社現代新書)を、40年来の愛読書にしています。

 今も「ほっこり」の原稿に向かいながら、その一冊を手にしています。ふと目に留まったのは、本のなかにある「生きる顔つき」という一編の「父母の顔をひきずって生きる」という小見出し。水上さんは「ああ、人間は、みな父と母の土地で、同じ顔にもどって死ぬのかな、と思ったりする」と書いています。

 私事で恐縮ですが、だいぶ以前に他界した私の父は、私とは人生の価値観が異なり過ぎていたため、ときに、自分の親でありながら激しく憎む対象でした。その父親に、もとは母親似であった私の顔が、なんと確実に似てきているのです。

 不思議なものですね。幸いなことに今は、もし父親が生きていれば、一緒に温泉に入れる気持ちになりました。

(慧)