(Greg Walters/Creative Commons)

チベットの光 (26) 山頂の石小屋

明くる日の早朝、尊者はウェンシーを呼びつけて言った。「怪力君、昨日の話は少し勘気に任せて言い過ぎたから、気にしないでくれ。君は体が丈夫そうだし、気力も体力もありそうだから、わたしのために経書を保存する石屋を建ててくれないか。もしできたら法を伝えよう。その間、必要な衣服と食物は提供してあげよう」

 「しかし、建築が半ばで私が死んでしまったらどうしますか」。ウェンシーは手放しでは喜べずに尊者に聞いた。なぜなら、彼一人で行うのである。そのような大きな石屋を建てるのは容易なことではない。一日、二日、いや一か月でも二か月でもなく、一年半ぐらいかかっても、すぐにできるものではない。そして、人生は無常だ。いつ何がおきるか分からない。自分が大病に罹ったり、あるいは天災人禍があるともかぎらない。この一命が床に臥せって、起き上がれなくなったりしたらどうするのだ。

 「この期間、おまえは決して死なないと保証してやろう」。尊者がこれに釘を刺すように言うと、ウェンシーは威儀を正して座り直し、聞き続けた。「勇気のないもの、信心のないものは法を修煉することができない。人が一生の間に佛になれるかどうか、あるいは転生を重ねて修成できるかどうかは、その人自身が精進できるかどうか、苦を刻んで修行できるかどうかを見なくてならないのだ」

 ウェンシーは尊者の話を聞くと、まだ自身に法を得る希望があることがわかり、うれしくなって苦しくても修めることに決めた。

 「それで先生、どのような石屋を建てればいいのですか」

 「円形の石屋だ。あの山の東側の山頂だ」。尊者が険しい高山を指さした。その山は峻厳きわまり、這って登っても困難なのに、石を麓から運んで上まで持ってあがるというのだ。しかし、ウェンシーは退却しなかった。師父が法を伝えてくれると言ってくれたので、嬉しくてたまらず、法を修めることができさえすれば、少しぐらい山を這って登り、石を運ぶぐらい何でもなかったのだ。

 ウェンシーには一刻の猶予もなく、山の麓から大きな石の塊を山頂にまで運び上げ、また戻ってきては石を背負い込み、また下ろすという大車輪の働きで、何が疲れで、何が苦しみなのか知らないかのようであった。

 その驚異的な意志の力は、まさに山を抜き海を倒す、不可思議なものであった。

 ウェンシー本人は元よりこのようなことを考えず、心根が単純で専心であり、多くの事は思わず、ただ石屋を早く建てて、すべからく法を得ることだけを思っていた。

 日は一点xun_齠冾ニ過ぎてゆき、山を下りては石を運び、石を担いでは山を登り、ウェンシーの日常は山を登ったり下りたりして、石を運ぶことで過ぎて行ったが、石屋は段々と出来上がってきた。

 ウェンシーの思いは単純で、頭の中は空っぽのようであったので、石を運ぶ速度は普通の人の二、三倍であった。彼の頭は余計なことを考えずに、ただやりぬくことだけであった。彼は何も考えず、我を忘れて励んだので、肉体的な疲労は、夜の睡眠時間が短くても、すぐに回復したのであった。

(続く) 

 

(翻訳編集・武蔵)

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