1982年の映画『刑事物語』。武田鉄矢さん演ずる片山刑事が心を寄せるのは、風俗の店ではたらく聾(ろう)の娘でした。その薄幸の娘には、怪しい男の影が、いつもついてきます。
夕陽に染まる海辺のラストシーンで、その訳が知らされます。村上というその男も、娘と同じ障害をもつ身でしたが、娘とは将来を約束していた誠実な人物でした。
村上が片山刑事に向かい「この娘を愛しています。二人で力を合わせて生きていきます」という意味の言葉を、懸命に、しぼるように発声して伝えます。それは、村上自身の耳には聞こえていない声でした。片山刑事は娘に「あなたは、かわいそうな人ではなかったのですね」と言い、娘の幸せを祈りつつ、深く頭を下げて去っていきます。
村上を演じたのは田中邦衛さんです。日本人の誰もが、大好きな俳優さんでした。
(慧)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。