漢字の紐解きシリーズ
熟能生巧(シュ・ネン・シェン・チャオ)
「熟能生巧」は、日本語の「習うより慣れよ」とはちょっと違ったニュアンスがあります。この格言の由来についてお話ししましょう。
一千年ほど遡った北宋(紀元960-1127年) の時代、陳堯諮は百発百中の弓矢の達人として、もてはやされていました。自分でも世界一の射手であると自負していました。
ある日、陳は人だかりを前に自分の技を披露していました。皆、彼の腕を褒め称えましたが、一人の油売りだけは特に感心もせず、冷めた様子で眺めていました。陳は不快に思い、「弓矢を射る道を知っているのか。なぜ私の矢を射る姿を見下すのか」ととがめました。
油売りは答えました。「弓矢の技術はありませんが、特別なことには思えません。手を慣らすだけのことです」。そして、ひょうたんを一つ地面に置いて、四角い穴のあいた銭を一枚、ひょうたんの口にかぶせ、ひしゃくで油をすくい、ひょうたんに油を注ぎ始めました。銭には油が一滴たりともつくことはありませんでした。
皆、感嘆の声をあげましたが、油売りは自慢することなく言いました。「たいしたことではありません。手が慣れているだけです」。これを聞き、陳は自分の傲慢さを恥入り、これまで以上に弓の練習に励みました。そして後に才能もあり徳も高い人物として名を残しました。
「熟練が巧を生む」。鍛錬には、謙虚さが欠かせません。
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北宋の時代(960~1127年)、科挙の最終試験に合格し、進士となった楊時(ようじ)は、 さらに知識を求めて当時有数の学者、程頤(ていい)に教えを請うことにしました。
「出入平安」という文字が、中国の家屋に掛かっているのをよくみかけます。この言葉は「外も内も安全に」という意味を表しているそうです。富を築くよりもまず、安全に居住することは最も大切なことです。