彼の病気は本当に治ったのか
数年前、ある末期の肝臓ガン患者が私を訪ねてきました。彼は、大手の病院ではもう治療の施しようがないので、漢方で運試しするしかない、と言いました。彼は顔色が暗く、腹水が溜まっているようでした。
『黄帝内経・繆刺編』には「人は高所から落ちたら、悪い血が腹の内に溜まって腹が膨れ、腰をかがめたり仰ぐことも出来なくなる。大小便を通じさせる薬を飲んだ方がよい」と書かれています。つまり、高所から落ちたら、上でいえば厥阴脈(肝臓と関連ある)を、下でいえば少陰脈(腎臓に関連ある)を損ねると、足首内側の「然谷(ねんこく)」というツボを鍼で刺して少し血を出します。効果がなければ、また足の甲の動脈、或いは足の親指の「大敦(たいとん)」というツボを刺して血を出すと、直ちに良くなります。病症は左側にあれば右側のツボを刺し、右側にあれば左側のツボを刺すのです。
転んで怪我をしたら、良くない血が腹部に溜まって腹が膨れ、腰をかがめる動作すらできなくなります。一方、この患者は肝臓にガンを患い、痛みがあって、「腹部に悪い血が溜まっている」状況と似ているのではないでしょうか。 大小便を通じさせ、彼の左側の「然谷」と「大敦」のツボを刺して血を出す処置が、効果があるだろうと私は考えました。
以上の判断を踏まえて、私は週一回、この患者に鍼を刺し、また漢方薬を処方しました。八週間後のある日曜日、彼と彼の家族は嬉しそうに、私に感謝を述べました。大病院の診断結果で、肝臓の腫瘍がなくなったことが分かったというのです。
しかし、三日後、この患者の知り合いが診療所に来て、彼が亡くなったと告げました。私は驚いて、「どうして?」と聞くと、「とても小さな交通事故でした。車体はほとんどぶつけられておらず、車内の乗客も全員無傷で、彼自身もほとんど怪我をしていなかったのですが、なぜか亡くなってしまいました」と答えました。
李洪志先生は『転法輪』の中で、「一つはっきりさせなければならないことがあります。一般の気功による治療と病院での治療は、どちらも病気を引き起こす根本的な原因である難を後半生あるいは将来に先送りするだけで、業力そのものは全然動かされていません」と説いています。
重病とは過去に積んだ「業力」によって招いたもので、全快を望むなら佛法に従って修行をして、今まで蓄積してきた業力を取り除くのが一番良いと、私は治療しながら、彼に伝えてきました。しかし、毎回彼は一笑に付するだけで、私の言った業力と修行のことなど全く自分の病気とは関係がないと述べ、私の提案を聞き入れませんでした。
実は、病気治療とは病の根本原因である難を将来に先送りしただけで、業力はまったく動かされていません。彼はその時の機縁を捉えることができず、壮年で早死したのは、本当に残念なことです。
(翻訳編集・陳櫻華)