チベットの光 (58) 精進苦修の誓い

去りゆく叔母の後姿を見るミラレパの心の中には、一種強烈な悲哀が広がっていた。彼の心には、さまざまなものが交錯していた。ジェサイが彼にした話、母親と妹の悲惨な命運、叔父の彼に対する怨恨、叔母の悪行、これらのことに思い至るとき、すでに数年が経過しているというのに、叔父は自分のしたことを棚上げにして、自分の受けた苦痛をまだ根に持っている。叔父の怨恨は、すでに叔父の心と人生全体を浸蝕していた。彼が生きているのはミラレパに復讐するためであり、彼はその怨恨の苦しみから抜け出せずにいた。叔母もまた相も変わらず貪欲で、その心根は悪いものであったのだ。

 ミラレパは彼らを見るにつけ、世間の人は実に憐れだと思った。わずかばかりの物質的利益のために嘘をついて人を騙し、心中の喜怒哀楽を掴んで放さず、その実これにしがみついて、がんじがらめになってその檻から出られないのだ。

 「ああ、世間のことは、大体がこのようなものだ。人は世に生きていて、何が面白いというのだろうか。まるで子供の遊びではないか」。ミラレパは嘆いた。心の中では世間に対する執着はなかった。彼は、自らの地所を放棄すると決めた後、まるで心の中の石の塊を取り出したようで、すぐに自由な気持ちとなり、心にはなにも心配事もなく、微笑みさえ浮かんできて、すぐにフマパイの洞窟に行って、そこで修行することにした。

▶ 続きを読む
関連記事
古代中国の周代で行われた冠礼は、成人を年齢ではなく徳と責任の成熟で認める儀礼だった。日本の元服にも継承された「成人という身分」の原点を探る。
同じ家族でも異なる自閉症の姿――鍵は2つの遺伝的要因にあった。最新研究が示す遺伝の仕組みと、重度自閉症に希望をもたらす治療の可能性を丁寧に解説する注目記事。
いま、「成人」という言葉は、主に「年齢」を表すものとして使われています。「何歳からが大人か」という数字の話はよ […]
睡眠は「良い・悪い」だけでは測れない。研究が明かす5つの睡眠パターンと脳への影響を解説。自分の眠りの癖を知り、心と体を整えるヒントが見えてくる注目記事。
もう2026年?もう1週間たったのに、年が始まった気がしない。同じ感覚の人、きっと多い。無理に切り替えなくていい。焦らなくていい年明けの話。