(NYCTCM/Creative Commons)
≪医山夜話≫ (63-1)

東洋と西洋漢方医療の違い(1)

人は長年、仕事をしていく上で、様々な過程と段階を経ながら、徐々に経験を積んでいきます。もっとも厄介な時期は、知識と経験が中途半端な、いわゆる「コップ半分」の状態です。まだ仕事を始めて間もない新人なのに、まるで全てを知っているかのように自信満々で、人の忠告は全く耳に入らず、頭を下げて教えて貰おうという気持ちがありません。私も漢方医学を学んで間もない頃に、このような経験をしたことがあります。今思い出すと、思わず苦笑いをしてしまいます。私は外国の大学院でアメリカ人の教授から漢方医学を学んだので、私の「コップ半分」の状態は更に深刻でした。

 私はアメリカから中国に行って臨床治療の実習をした時期がありました。その時、すぐ上の兄は、昔から私をないがしろにして来たのですが、改めて見直したようでした。また、私が海外で製造された立派な漢方医療器具を一点一点取り出して見せた時、ずいぶんと驚いた様子でした。

 私が色鮮やかなプラスチック・カバーの付いたを取り出した時、長年、銀の鍼を使ってきた母は眉をひそめて、「これでどうやって鍼を刺すの?」と聞きました。母は、私の方に手を伸ばして、手のツボにある合谷穴に鍼を刺すよう指示しました。私はカバーの付いた鍼を一本手に取り、そっと刺し入れてから、また抜き出した時には、少し有頂天になっていました。

 母は「何にも感じなかった。どうして?」と聞きました。「感じないことこそ目標ですよ」と私は説明しました。母は自分がずっと使っている中国の銀の鍼を私に渡し、「あなた、これを使ってもう一度、同じところを刺してみて」と言いました。

 「中国鍼」は私の常用鍼より何倍も太く、またカバーのない鍼の刺し方も知らなかった私は、「駄目、この鍼は太すぎて、外国人は耐えられない」と言い訳をしました。

 その時、母は何も言いませんでしたが、しばらくしてから、私の手法を見たいと言いました。兄が自ら進んで、「私にテストしてみてごらん」と言ってくれました。いままで、体にテストすると言ったら、直ぐに兄は逃げていたのですが、私の使う鍼は細いので、痛くないと思ったようでした。

 「どこのツボを刺そうか?」と聞くと、「陽陵泉(ようりょうせん)にしましょう」と母は答えました。

 私はポケットから目盛りが書かれたゴムバンド(アメリカの鍼灸学院の学生なら誰もが持っている、体のサイズを測る道具)を出して、兄の足を測りました。鍼を入れようとすると、母は厳しく「骨の上に鍼を入れるの?」と言いました。

 私は内心慌てて、「あそこはさっき私が測ったツボなので、教科書に教えられたとおりよ、少しも位置はずれていないわ」と答えました。自信満々な私を見て、母は何も言いません。さっきと同じように私は優しく鍼を入れたつもりでしたが、なんとお尻にスプリングがついたように、兄は高く飛び上がりました。「どうしてこんなに痛いんだ?これは、さっき使った日本製の鍼で痛くないはずだろう?」と兄は不思議そうに言いました。

 母が笑ったので、私は少し気まずくなりました。母は、「実は、鍼の太さに関係なく、鍼を入れる手法が大事なのよ。ほらここに鍼をすればいいのよ」と、優しく言いました。

 しばらくして、私はまたドイツ製の耳探測器を取り出しました。「体のどこに病があるのか、この器械で耳を測定したら音で分かるのよ」と自慢しました。兄の耳を探測すると、器械は鳴ったり鳴らなかったりして、出た音は兄の体の状況とは、あまり関係がないようでした。

 「ねえ、まさか僕が妊娠したなんて診断しないよね。ドイツ製であれフランス製であれ、きっと使いものにならない器械に違いないよ」と兄は言いました。

 明らかに、兄はこれらの器械にがっかりしていました。私は、また韓国製の空気抽出型の吸い玉を持っていました。見た目はきれいですが、実際に使ってみると使い勝手が面倒で操作自体も遅いのです。

 最後に、母は「体の全てのツボの名前がわかるの?」と聞きました、私は「それは暗記する必要はないのよ。外国では、ツボの名前は使わずに番号で記録しているの。例えば膀胱経の67個のツボは全部番号で記されているの」と答えました。

 母の顔を見ると、母はずっと私の話に我慢しているのが分かりました。国に帰ったばかりの娘を厳しく責めたりはしませんが、今日の出来事はすでに母の「許容範囲」を超えていました。私は「西洋漢方医」であり、「銀色を塗った、ろうで作った槍の先端(見た目は良いが使えないものの喩え)」です。外見ではレベルが高そうに見えますが、私が臨床で学んだものは、実際の患者の病気治療に、本当に役に立つのかどうか分かりません。

 「あなた、明日から病院で臨床研修をしなさい。これらの外国製品を捨てて、片手で鍼を刺す方法を学び、そのセンスを磨きなさい。『補』と『瀉』の手法、吸い玉のかけ方、脈と舌の診方を習いなさい。経験を積んだ漢方医に付いて、初心に戻って基本から習いなさい。あなたは実際、何も分かっていないので、最初の基本から習わないといけません……」

 私は医者になってから10数年経った今でも、複雑で多様な病を前にすると、まだ自分は何もできず、基本から習わなければいけないとつくづく思います。あの時の研修は、私の医師人生にとって、間違いなく、とても大きな経験だったと思います。

(翻訳編集・陳櫻華)≪医山夜話≫ (63-1)より

 

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